プラセボ

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その結果聞かされた病名が【エガルモンテ・ディビジ・ラマリエ症候群】なんて言う、全くもって聞いたことのない病名であったため抱いていた不安は強くなる一方であった。 「うーん、それが何とも多彩な症状をきたす疾患でありまして、私どもも正確にこの全貌を把握できていないというのが正直なところでございます」 難しい顔をして担当の医師は答えた。 その肩書きが意味するものはわからないが、胸につけた名札の中野丸雄という名の横に描かれた総合内科専門医、米国内科専門医、総合内科部長という資格を有する経験豊富そうな医師がそう言うのだから、そういうものなのだと納得する他なかった。 「そうなのですね……」 「はい。今分かっているのは50代、ちょうど私たちくらいの年齢の男性に多いというくらいで、原因、誘因因子、発症機序など全く分かっていないのが現状です」 「そうですか……。それではその、治療というのは……」 苦虫を噛み潰したような顔をしている先生を見るに、正直な話、明るい返答は期待していなかった。 「えーと、その確立した治療というのは無いのですが……」 やはりか、と思う。だがその後に意外な言葉が続いた。 「現在新たな治療法が効果を出しつつあります」 「え、そうなのですかっ」柄にもなく大きな声を出した。 「はい」中野先生は言葉を続ける。 「珍しい疾患ではあるのですか、最近この年代の男性を中心に増えてきていており専門家の中では研究が盛んな分野なのです。インターネットなどではまだまだ調べても出てこないとは思われますが」 「はあ」 「それで臨床試験というものが盛んに行われているのですよ」 「はあ、臨床試験」 「ええ、いわゆるというやつです。これに参加すれば最新の治療を受けることができます。まあ確実に効果が出るかどうかは分かりませんが、私どもは有効ではないかと思っています」 「そうなのですか、いつから始められるのでしょう」 「今からでも始められますよ、興味がおありですか?」 「はい、それはとても」食い気味に返事をする。 「ではこちら資料がありますのでお渡ししますね」中野先生は机の下にある引き出しを開けてクリアファイルに入った資料を啓治に手渡した。 「参加いただけるのであれば、またご連絡ください。お待ちしておりますので」
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