ダンデライオン

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ダンデライオン

 僕たちはベンチに腰掛けた。飲み物をカップに注ぎ、食べ物をその場に広げる。熱いコーヒーを一口啜った瞬間、不意にさっき中断した曲想が想い浮かんだ。頭の中へ自然にメロディーが流れ、全く滞ることなしに最後まで繋がる。録音しようかと思ったが、その必要はなかった。忘れようとしても忘れられない曲だ。  詩も思いついていた。春が好きな女性と、春が苦手な男性の心象が、一節ごとに入れ替わり、徐々に重なり合っていくという構成である。彼らは共通の夢を抱いていて、それを二人の手で暖めるように、寄り添いながら生きている。  あっという間に出来上がった。僕は気分を良くして、彼女に体をすり寄せた。平日というのもあって、園内に人影は少ない。それを良いことに、そっと相手の身体に触れた。肩の辺りを撫でながら、次第に頭へ手を伸ばす。柔らかい毛が心地よい。  彼女は構わず食べている。口の中に入ったおやつを、小気味良い音をさせて噛み砕くと、カップに顔を近づけた。長い舌を出して、すくうように水を飲む。小魚が跳ね回るような音が、音楽のように耳へ響いた。  彼女が顔を上げて、こちらに鼻を向けた。濡れそぼった表面が、冬の淡い日差しを受けて、黒く艶やかに輝いている。まん丸い瞳の中には、自分の顔がくっきり映り込んでいた。  僕はたまらなくなって、彼女に唇を近づける。まるで蕾が花開くように、大きな口がほころんだ。温かい吐息と、ざらりとした感触が顔に感じられた。
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