ダフネ

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ダフネ

 僕は実のところ、春が苦手だ。確かに気分は高揚してくる。けれどもその理由はと言えば、ただ春になったというだけで、他に嬉しいことなど一つもない気がする。それなのに無理矢理喜べと言われているようで、何だか息苦しくなってくるのだ。桜の咲く季節になると、精神に異常をきたしてしまう人が増えるという話を聞いたことがあるけれども、程度の差こそあれ、僕も正常ではなくなっているのかもしれない。  でも彼女といる時は別だ。今にも咲こうとしている花に眼を留めつつ、土の感触を感じながら歩いていると、自分が自然の一部であることを改めて思い出していくような心地がする。そうして生ぬるくて柔らかい風に乗って、草木の強い香りが漂ってくるのを吸い込みつつ、池の周りを一周し終える頃には、ただ春になったというだけで、他に嬉しいことなど一つもいらない気すらしてくるのだった。  
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