行け! ライネス!

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       プロローグ  桜の花が咲き乱れ、なんて歌があったな。そんなことを思い出していた。  今日あたりはもうそんな感じだった。  桜の花がヒラヒラと舞い散り。地面は桜の絨毯となっていた。  風が頬をなでる感じはくすぐったく、オレの心は新学年ということでわくわくとドキドキが交差していた。  遂にこのオレこと、ライネスも小学五年生となった。最高学年って訳じゃないけど、でも小学校も残すとこ二年。残りの小学校ライフをめいいっぱい楽しみたい。この青い空にオレはそう誓った。  お気に入りのキャップを目深にかぶり直し、リュックを背負い直した。  さあ、新しいクラスと席だ。十分に楽しもう。            1  その日は校長先生のチョットだけ長い話を聞き、オレたちはクラスで新しい担任の先生の挨拶を聞いて、それで帰った。  いわゆる始業式だから、早く帰れたのだ。  明日からは授業が始まる。しっかり勉学に励まないとな。  なーんて心にもないことを思いつつ、住んでいるマンションの目の前にある公園にさしかかった。 時間はお昼になる前。ちょっとだけ遊んでから帰るかなあ? そんな思いに駆られていた。 「キャーッ!」  悲鳴だ!  誰のかはわからないが、草葉の陰から悲鳴が聞こえてくる。 「助けなきゃ!」  大人を呼んでこなきゃと思う前にオレはそう思った。  オレは声の聞こえた方へ走る。 「なっ!」  それを見たオレは思わずそんな声を上げてしまった。  銀色の全身タイツを身につけた、オモチャの光線銃らしきものを持ったヤツがそこにいたのだ。  オレは考える前にそいつに飛びかかっていた。そして頭を殴る殴る殴る!  しかし、銀色全身タイツには全く効いていない。コイツ、ただの変態じゃない。  銀色全身タイツは、オレを振り払う。 「なんて力だ!」  思わず出た言葉通りだ。コイツは人間離れした力を持っている。明らかに一般成人男性よりも強い力だ。  まさかコイツ・・・・・・! 「宇宙人?」  オレは戦慄する。宇宙人なんているとは思わなかった。むしろそんな話が出たらバカにしてかかっていた。  でも現実にはここにいる。  宇宙人は、女の人を抱え上げると、オレに向かって手を伸ばしてきた。  どうしたことだろうか? 急に眠気が・・・・・・。これはマズイ。このまま寝たら絶対何かされる。  どっか知らないところに連れて行かれ、良くて標本にされる。もしくは卵を産み付けられる。  どっちにしても死は避けられない。  死、死、死。  恐怖を感じるまでもなく、オレの意識は徐々に薄れていく。  後一秒で眠る。そんなタイミングだった。 「見てらんないゼ」  オレの後ろから少年が現れた。  宇宙人のサイコキネシスが切れたのか、オレの眠気は背中に冷や水を流し込まれたように一気に覚める。  オレはオレはその場から離れる。  そして、やってきた少年の後ろまで後退する。 「あ、アイツは!」 「宇宙人だ」  そのあっさりした答えに、オレは驚く。コイツ、宇宙人と知っているのか?  やってきた少年は、指先を宇宙人に向ける。 「コイツ程度なら、指先一つでダウンさ」  少年の指先から、光線が発射された。  放たれた光線は軌跡を追う前に、宇宙人に命中。オレは顎が外れそうになるほど驚いた。 「い、いいい、今のは?」  逃げた宇宙人を追おうともせず、少年は女性に手を当てていた。 「PSI、超能力だ」 「ち、超能力? あの念動力とか、心を読むとかの、怪しい?」  少年はそんなオレの言葉に苦笑いする。 「その超能力だ」  女性はまだ前後不覚という感じだが、目を覚ました。 「今のも?」 「そうだ、サイコヒーリングだ」  少しだけ、ホントに少しだけだけけれど、オレは超能力を信じ始めていた。  まだ、いつの間にかヴァーチャルリアリティを見せられているんじゃないか? とどこかで思ってはいるがね。 「もし、この力を使えるようになりたかったら、PSI研究所に足を運ぶといい」 「ぴーえすあいけんきゅうじょ?」 「そうだ、そこの四号マンションの地下にある」  少年は立ち上がり、そのままオレをもう一瞥する。 「ま、お前じゃ無理そうだがな」  オレはほんのチョッピリ、いや、かなりむかっ腹が立った。  お前には出来ないだと? やってみる前から否定されるのはかなり腹が立つ。  オレはフンフンと鼻息荒く帰宅し、お昼のミートソーススパゲティを平らげ、食べ終わって食休みを十分とった後、お気に入りのキャップをかぶり、何故か我が家にあるバットを手にして、四号マンションに向かった。  四号マンションは隣のマンションだから一分でたどり着いた。  地下なんてあったかな? と思いつつ、四号マンションのエレベーターに乗ってみる。  ゴウン・・・・・・と音を立て、オレを乗せたエレベーターは動き出した。もちろん下へ向かって。  浮遊感の後、若干重力がかかった感じを受け、エレベーターは地下一階で停止した。  ドアが開く。  扉の上には毛筆で、「PSI研究所」とある。  オレはドアを叩いてみる。  と、叩いた後で、インターフォンが有るのに気づいた。ちょっと気恥ずかしい。  ボタンを押す。 「はい、どなたかな?」  老人の声だった。フガフガとしたしゃべりから、この人物が入れ歯であることを想像した。 「オレ、ライネスっていいます。ここに来れば、宇宙人と戦える力が手に入るって聞いて」  すると声の主は、「何? 宇宙人じゃと?」と、若干の興奮を隠しきれない様子だった。  甲高い音を立て、扉が開く。 「入りなさい」  ぐるぐるメガネの低身長な老人は、オレに室内に入るよう促した。  今になって思う。この時オレは人生で最大の決断を無意識にしていたんだと。  オレ「さあさあ」と、促されるまま、室内へ入っていった。 「ようこそPSI研究所へ。じゃ」  何に使うかわからない器具がたくさん置いてあった。  ベンチプレス、鉄アレイ、ワセリン。  貼ってある張り紙には、「肉体美」と書かれていた。  オレは頭に「?」を浮かべつつ、ぐるぐるメガネの老人に聞いてみる。 「PSI研究所? ジムじゃなくて?」  ぐるぐるメガネがキラリと光った気がした。 「そうじゃ。あれらをPSI、つまりサイコキネシスで動かすんじゃ」  な、なるほど。あれくらい重いものを持ち上げられれば、いっぱしということ、なんだろうか? オレは一人納得しつつ、老人の話を聞く。 「まあ、スワリタマエ」  何故カタコトなのか? 意味はわからないが重要な気がしてきた。 「ワシはこのサイキック研究所の所長、ハカセじゃ」 「ど、どうも」  一応上目遣いで挨拶をする。ハカセっていう名前なんだろうか? よくわからない。 「して、先ほど言っておった宇宙人とはどういう意味じゃ? もしや出会ったのか?」  オレは首肯し、ハカセに先ほど有ったことを伝えた。チョッピリだけ、オレの活躍を上乗せしてだけどね。 「なるほど、野良スターマンに出会ってしまったか」  オレは聞き返してしまった。 「アイツはスターマンって言うんですか?」  ハカセは首を縦に振り、重要な問題のように話し始めた。 「奴らはワシらの住んでいる、この地球を乗っ取ろうとする侵略者じゃ」  心当たりがあった。確かに奴らは女の人を捕まえて、キャトルミューティレーションしようとしていた。オレもその二号になりそうだった。 「ワシらはそんなスターマンから、地球を守らねばならぬのじゃ」  もっともな話だ。このままでは地球は乗っ取られてしまう。その前になんとか撃退しなければいけない。 「しかし、面と向かって戦いを挑んでも、無理じゃ。何せ奴らはとんでもない力を持っておるからの。」  確かにそうだった。あの力は異常だった。多分、今オレが持っているバットも簡単にへし折られるんじゃないかな? ポキッと折って食べるアイスのように。 「なので、奴らに対抗するためには、サイキックパワーしかないんじゃ」  そういうことだったのか! と、オレは若干の興奮気味に、前のめりで話を聞く。 「どうすればその、サイキックパワーを手に入れられますか? 教えてください」  オレはハカセの肩を持ち、ガクガクと揺らす。若干メガネがずれたが、ハカセはそれをなおし、オレに向き合う。 「そうじゃな、まずは潜在パワーの測定をしてみようかの? 人によってはサイキックパワーが全くないヤツも居るからの」  全くないヤツもいるのか。もし、オレにそのパワーが無ければ? うう、震えてきた。 「大丈夫じゃ。血液検査と、ヘッドギアでの脳量子波検査、どっちがいいかの?」 「ヘッドギアでの脳量子波検査でお願いします」  ハカセの提案をオレはコンマ一秒で答えた。  だってハカセの持っている注射器、血がついてるんだもん。絶対使い回しだもん。  この年で肝炎になる危機を脱したオレは、ヘッドギアを被せられる。  ハカセはどこからともなくタブレット端末を取り出し、何かシュッシュシュッシュやっている。 「おお、これは」 「どうしたんです?」 「なかなかの数字が出ておる。チミはなかなかたぐいまれな存在かもしれんのう」  ハカセはファファファと笑いながら、タブレット端末を腰の後ろにしまった。 「じゃあ、オレ!」 「慌てるな、チャーハンはオカズだ!」  意味はわからないが、慌ててはいけないことだけはわかった。 「千里の道も一歩から。「はじめの独歩」というマンガも有るじゃろう。それに習い、まずは簡単なトレーニングから始めようかの」  オレはそんなマンガ知らないが、きっとハカセは正しいのだろう。オレはヘッドギアを外し、キャップを目深にかぶり直して、ハカセに促されるまま筋力トレーニングを開始したのだった。  トレーニングを始めて三日がたった。オレの体は特に変化はなかった。  当たり前だ。三日でマッチョになれるんだったら、世間はナチュラルビルダーでいっぱいだ。  ちなみにナチュラルビルダーとは、ステロイドに頼らず、美しい肉体を作り上げる、ボディビルダーのことだ。  オレも早くいっぱしのビルダーとなり、美しい体がほしい。  あれ?そんな話だったかな?  少し考える。  ベンチプレス十キロを上下させながら考える。しかし、答えは出ない。  って、ちょっと待てよ? アレ? スターマンに対抗するために、力で叶わないからサイキックパワーを鍛えるんじゃなかったっけ?  なんで己の肉体を鍛えてるんだ?  オレはそれをハカセにぶつけてみた。 「そのことに気づいてしまったか」  気づくよ! 誰でも気づくよ! オレは三日かかったけどね。  それでもオレはトレーニングの手を休めない。  ああ、これが洗脳というやつなのか?  一抹の不安がよぎる。            2  トレーニングを続けるある日のこと、オレのところに電波が飛んできた。 「何だ? コレ?」  そう思いつつ受信してみる。 「ふむふむハハーン。わかったぞ」  名探偵みたいなことを言ってみたが、実はさっぱりわからない。  もう一個電波が飛んできたので、それも受信してみる。  パラボラアンテナをヘルメットにした、パラボラヘルメットが無くても受信できる。いい時代になったものだ。  この十年で時代は良い方に変わった。  電波を受信すると、その電波はこんなことを言い出した。 【ライネス、ライネス、聞こえますか? わたしはアンナ、アンナです】  女の子の声だった。かわいらしい感じの。  オレはさらに耳を傾ける。 【ライネス、わたしは待っています。待っています】  アンナという少女が何を求めているかはわからないが、オレは会ってみたいという気持ちになってきた。  そうしなきゃならないような気がするのだ。 「どこ? どこにいるの?」  オレはおもむろに聞いてみる。  それが向こうに伝わるかはわからないが。 【ああ、ライネス、聞こえたのね? わたしはあなたが来るのを待っています】  時間なのか、それともサイキックパワーが切れたのか? そのままアンナの声は聞こえなくなった。  オレはアンナに会いに行くことにした。どこにいても必ず会いに行く。待っててね。  というか、電波が受信できるようになるなんて、これもPSI研究所で日々トレーニングをしているからだろうか?  もっとも筋力トレーニングしかしてないさせてもらってないけどね。  この調子なら行った甲斐もあるというもの。  でもどこを探せばいいのか? わからない。  PSI研究所に通い続ければまた電波が飛んでくるかもしれない。なーんて甘い期待をオレは抱いていた。  次の日、学校に向かったオレは友達に聞いてみた。 「この辺りで、『アンナ』なんて女いないよね?」  すると友人のノッチは驚いた顔をしていた。 「隣のクラスに、いるじゃん」  は? 隣のクラス?  全くの盲点だった。あのアンナが隣のクラスにいる? 「ノッチ、すまんまた後で話そう」  ノッチはまだプレイ中のゲームの話をしたそうだった。しかし、オレはそんなノッチを置き去りにして、隣のクラスへ向かった。  オレの小学校の五年生は三クラスあった。  不良ばかりの一組、変態ばかりの二組、アホの三組。  そんなイメージがある。  アンナという女の子がいるのは、三組らしい。アホだったらどうしよう? 少しだけ考えてしまう。ちなみに、オレは二組だ。変態なのかな?  恐る恐るオレは三組をのぞいてみる。  野郎どもはやはりアホなことをしていた。  押しくらまんじゅうみたいなことを教室の奥でやっていた。  女子はというとそれを見て笑っていた。  そんな中に彼女はいた。  ピンクのワンピースを着た、ブロンドヘアーの彼女。 「ああ、彼女がアンナだよ」  ノッチだった。ノッチが指さしたのは、やはりピンクのワンピースを着た、ブロンドヘアの女の子だった。  か、かわいい。  あんな子がオレに電波を送ってきた、あのアンナだったいいのにな。  そう思っていたら、アンナもこちらに気づいたらしい。  こちらに手を振り、にこりと笑みを浮かべている。  オレはしどろもどろになり、カチコチに固まってしまった。  ロープでくくりつけられたような感じ? いや、氷付けになったような感じだ。  自慢の筋肉も緊張で固まってしまった。  そんなオレを見て、アンナは笑顔だった。  オレはアンナにむかって歩き出そうとした。するとノッチが手で制してくれる。 「ライネス、隣のクラスだぞ?」  オレはハッとなる。この小学校には暗黙のルールがある。自分のクラス以外は入らないというものだ。  入ったヤツは、あんまいい顔をされない。のけ者になる可能性だってある。それだけは避けたいだからノッチはオレの恩人だった。  三組中に笑顔を振りまくアンナに、近づくことすらできない。オレの心はやきもきしていた。 「どけ、邪魔だ」  後ろから突然言われ、オレとノッチは道を開ける。そこにいたのは先日、ビームを出して宇宙人のキャトルミューティレーションからオレを守ってくれたヤツだ。 「キミは」  ヤツはそんなオレを鼻で笑い、問いに答えることなくクラスの中へ入っていった。  そしてヤツはアンナの席の前へ行き、彼女に話しかけた。  何を話しているかは聞こえないが、楽しそうにはしている。  オレは「ぐぬぬ・・・・・・」と言うのが関の山だった。 「アレ、シゲサトだね」  ついオレは復唱する。そいつは誰だ? とそんな感じにね。 「ああ、一組の不良の一人。シゲサトだよ」  一組の組員だったか。道理で無法者だ。  授業開始のチャイムが鳴る。 「ライネス戻ろうよ」  そんなノッチの声に促され、オレは生返事で二組に戻る。  放課後、PSI研究所にオレは行く。PSI研究所に行くことは、オレのいつものパターンになろうとしていた。  オレはいつも通り、筋力トレーニングに励んでいた。  鉄アレイを持って、腕を伸ばしたり縮めたり。を繰り返していた。 「何を悩んでいるんじゃ?」 「老師・・・・・・」  老人が現れた。ちなみにハカセとは別人だ。老師はトレーニングを見てくれる人という訳でもなく、サイキックパワーを高めてくれる訳でもない。ただそこにいる、不思議な人だった。 「実は、カクカクウマウマで」  オレはテキトーに説明する。シゲサトのこと、アンナのこと、ノッチのこと。 「なるほどのう、暗黙のルールか」  老師は顎を触りながらニコニコ笑っている。  老師は常に笑みを絶やさない。見習いたい。 「ライネス、いいか? 第一のルールは、ルールが無いということなんじゃ」  ルールが無い? どういうことだ? 少し考える。  そうか! わかった!  オレはルールに縛られすぎていたということだろう。本来人間はもっと自由なはずだ。だからオレももっと自由に生きてもいいんだ!  老師の教えを心に胸に刻もう。  そう思った。  その日の筋力トレーニングはかなりはかどり、いい汗がかけた。オレはつくづく思う。もっとアクティブに生きねば! とね。 「ほれ」  老師から何かを手渡しされた。  手の中で何かが破裂する。 「あっち!」  爆竹だった。 「フォフォフォ・・・・・・文字通りハッパをかけてやったわ」  老師の心憎い演出に、オレは脱帽した。 「へへっ、老師にはかなわねーや」  次の日、ノッチが制止するのをオレは振り切り、アンナに会うため三組へ向かった。 「あら、やっと来れたのね?」 「うん、やっと来れたよ」  オレもアンナも笑い合った。アホのように笑った。これも三組の教室に入ってきたおかげかもしれない。              3  オレは最近気づいたことがある。  何にって? シゲサトのことだ。オレはあのヤロウが気にくわないって、最近になってようやく気づいた。  だって、アイツ一組だし。不良で、いけ好かないし。それにキザったらしいし、アンナに先に声かけたし。  そんな感じだから、オレはヤツが嫌い。  だからオレはヤツに決闘を申し込んだんだ。  それに、遂にオレもサイキックパワーを使えるようになった。  一つだけだけどね。でも、それは大きな一歩だ。そうに違いない。  というわけで、オレはシゲサトをマンションの前にある、大きな公園へ呼び出した。  ところがシゲサトはなかなか来ない。  何故だ? 場所を間違えているのか? それとも来る途中交通事故にあったとか? もしくは宇宙人に捕まって、キャトルミューティレーションされているとか? ちょっとだけ不安になる。  あ、来た。 「よく来たな」  オレはヤツを褒めてやった。遅刻は許せないが、交通事故にあわなくて良かった。そうホッとする。 あ、あのヤロウ女連れだ! 余計に許せん!  ん? アレはもしやアンナ? ヤロウ、アンナ連れてきやがった! これはもう負けるわけにはいかない! もっとも、元から負ける気は無いけどね。 「やるんだろ?」  ベンチに座ったいい男みたいに言いやがって。絶対に勝つ! 「アンナ、見ててくれ。オレはキミのために勝つ!」  すると、アンナはため息をつく。 「ライネス、あのね」 「ぜーったいに勝利する!」  オレはリュックサックからバットを取り出し、シゲサトにかまえる。 「ライネス、一つ聞いておく。お前」  オレは気合いとともに、シゲサトに向け駆けていく。 「人の話くらい聞けよ」 「聞く耳持たん!」  オレはバット振り上げ、上段からの一撃をヤツに食らわそうとする。  すると、シゲサトは指先からビームを発射した。 発射されたビームは、オレの持つバットに当たり、バットは手から離れる。  フワリと飛んだバットはカラン、コロンと転がった。  オレは思わず舌打ちをする。 「なら持たせてやる」  シゲサトはこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。  コイツにはかなわないのか? その思いが少しだけ脳裏によぎる。 「サイキックパワーもロクに使えないヤツが、オレに勝とうなど」  その言葉を遮るように、オレは立ち上がり、バットを拾い上げる。 「オレもね、一つだけ使えるんだよ」 「何? なら見せてもらいたいもんだね」  オレから不敵な笑みが漏れる。 「PK」  オレは必殺のPKを試みる。そう、『必殺の』だ。  オレの体は徐々に変化していく。 「ビルドアーップ」  その言葉を言った瞬間、体中の筋肉が盛り上がっていく。 そして、身長は百八十センチメートルの、マッチョボディを持ったナイスガイが誕生した。  この鋼の肉体を身につけたオレは、百キロクラスのバーベルも楽々持ち上げることが可能になるのだ。 「さあ、かかって来い」  オレはシゲサトに向かってゆっくりと歩いて行く。  ヤツはオレに向け、ビームを何発か発射したが、そんなものは蚊が刺したのと同然。チョットだけかゆい程度だった。 「なるほど、そこまでサイキックパワーを扱えるようになっていたか」 「負けを、認めてくれるか?」  すると、シゲサトは、目を光らせた。 「しかしその程度ではな」  シゲサトの体も変化していく。  そこにはオレと同等の筋肉を持つ、マッチョダンディがいた。 「オレもこの程度は出来るんだよ」  思わずオレはフロントラットスプレットをかましていた。  逆三角形を作り、上半身の筋肉をアピールするナイスポージングだ。  するとヤツはダブルバイセプスで対応してくる。それは両腕を上げ、上半身の筋肉をアピールしてくる、グッドポージングだ。  「むううん貴様、シゲサト、なかなかやるな」 「貴様もなあ、ライネス」  そこからは大ポージング合戦となった。  美の男神と美の男神の戦い。これはどちらが勝ってもおかしくはない。  それから三時間、ポージング合戦は続いた。  どちらの筋肉ももうヘトヘト。とてもじゃないいがもう戦えない。そんな折も折だった。  つまんなそーに見ていたアンナが口火を切った。「あたしかえるね」  その時だった、どこからともなく光がアンナを照らした。そしてその体を宙に浮かせた。  美しい。  いや、そうじゃない。今彼女はさらわれようとしている。  光の出所が上空にいるUFOからだとオレは気づいたんだ。  オレもシゲサトもアンナを助けようとした。  しかし、オレの手もシゲサトの手も、届かなかった。  アンナは無情にも宇宙人にさらわれてしまったのだ!             4 「うおおお、アンナがさらわれてしまったんじゃあああ!」  狼狽するオレとシゲサトの元に、彼が現れた。そう、彼が! 「フォフォフォ、困っているようじゃの」 「「老師!」」  老師は手にしていた二つの瓶をオレとシゲサトに渡す。 「老師、コレは?」 「わからぬか?」 「まさから老師、コレは!」  シゲサトはわかったらしい。だが、オレにはさっぱりわからない。 「心じゃよ」  そう言って老師は去って行った。 「おい、シゲサト、コレは?」 「コレは高濃度のプロテインだ。コレさえ飲めば、アンナを助けることが出来る」 「ようし、待ってろアンナ。すぐ助けに行ってやる!」  オレもシゲサトも、瓶の蓋を開け、中の高濃度プロテインをあおる。ミルキーな感じで美味しかった。その時不思議なことが起こった。 「おお、体中に力が戻っていく!」  それはシゲサトも同様のようだった。 「では行くか」 「おう!」  オレとシゲサトはジャンプする。  高度一万メートル辺りで、アンナをさらったUFOに追いついた。  そしてオレたちはUFOの屋根に乗り移った。  UFOは加速する。しかしオレもシゲサトも振り落とされることはなかった。だって、そこには筋肉があるから。  振り落とされることがないと気づいたUFOは逆にオレたちを中に入れた。 「この中で最終決戦というワケか」 「この上腕二頭筋が鳴る!」  そして、オレたちの戦いが始まった!  五十匹は倒しただろうか? それでもオレとシゲサトは、宇宙人を倒しまくった。 「PKサイドチェスト!」 「PKアブドミナルアンドサイ!」  オレたちはポージングを決める。するとその度に大爆発が起こり、次々と宇宙人を駆逐していく。「ぬううん、アンナはどこじゃああああ」  オレのビルダーとしてのカンが、目の前のこの部屋にアンナがいる、そう伝えていた。 「行くぞ! シゲサト」 「フッ、任せておけい」  このキザったらしいのも、慣れてくると心強い。そう感じさせてくれる。  オレとシゲサトは、扉に向かってトライセプスをブチかます。  ポージングを見た扉は自ずと開いていった。  どうやら、自動扉だったようだ。 「こ、コレは!」  オレは目を疑った。シゲサトも同様のようだ。 「見れば見るほど奇っ怪な」  目の前ではガラス瓶のような入れ物の中に、様々な生物が入っていた。  猫、しいたけ、ごぼう、犬、そしてさらわれた人たち。  この全てが、ホルマリンのような液体の中に入っている。  しかし、中に入っている生物は皆生きていた。「ぬうう、ヒドイことを・・・・・・」 「宇宙人め、許せん! おしおきしてやる!」  シゲサトの案に、オレは同意した。  そう、奴らにはオシオキが必要だ。  オレとシゲサトは奥へと進む。すると、中ではアンナが瓶に入れられんとしていた。 「こりゃあ! 宇宙人め、こらしめてやる」  オレはリュックサックからバットを取り出し、力を込める。  木製バットだったから、大丈夫だった。金属バットだったらひしゃげていたね。  シゲサトはPKビームを放つ準備をする。 「コウシタラドウナル?」  宇宙人はアンナの首筋に手を当てる。  それは動いたら首を切り落とすというサインだろう。宇宙人の手も、金属質に光っているし。 「卑怯な」  シゲサトの声に、オレは同意する。 「アンナ! 起きてくれ! ライネスじゃああああ」  奇跡が起きた。高架下で電車が通り過ぎた時程度の音量しか出していないのに、アンナは目を覚ました。 「うるさい! むさ苦しい!」  アンナはバタバタと暴れ出した。 「オイ、シズカニシロ」  それに対しアンナはガンをくれて、要するに睨みつけた。 「テメエ、わたしのどこさわってんだよ! ブッコロがすぞ!」 「サイキックパワーヲ使エナイ人間ニワタシガオクレヲトルトデモ思ッテイルノカ?」 「わたしだってつかえるわ! PKビルドアップ!」  するとアンナの体はメキメキ大きくなっていきました。身長は三十メートル近くに育ち、一発のパンチで核爆発の半分くらいの衝撃が出る素敵なレディへと変貌しました。  だからオレは目を疑った。それはシゲサトも一緒だ。アンナは、アンナは、水色ストライプのしましまパンティだったのか。  吠えたアンナの声は国中に響き、オレたちを乗せたUFOはアンナの拳一発で沈んだ。  核爆発の半分のエネルギーだもんなあ。まあ仕方ないね。  そのままオレたち三人は、宇宙空間に飛ばされた。  オレたちはそのまま宇宙空間を泳ぎ、地球に戻っていった。  母なる大地へ・・・・・・。          エピローグ  オレはライネス。ただのサイキック野郎だ。バット片手に宇宙人を懲らしめている。  相棒のシゲサト、麗しのマドンナアンナとともに、今日も宇宙人を探す。  さあ、わりい子はいねえがあああああ!
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