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夢を見る。
夜特有の全てを塗りつぶすような、真っ暗闇。
車一台がようやく通れるアスファルトの坂道を誠は登っている。道の両側にはみっしりと木々が乱立し、無秩序に伸ばした梢で頭上を覆い隠していた。月も星も光を通さない。
光源は手に握る懐中電灯一つ。ゆたり、ゆらりと揺れる白い光が、闇の中をぽっかりと穿っている。
多分ここはどこかの山中だ。なのに鳥も虫も、鳴き声一つ聞こえない。唯一、きゅ、きゅ、と履き慣れた運動靴がアスファルトを踏みしめ音だけ耳に残る。
リアルな夢だ。靴底に感じるアスファルトの硬さ、山特有の空気、背中や額に感じる汗と、湿って貼りつく布地の不快さ。だが現実であるのならば、誠が一人でこんな時間にこんな場所を歩いているはずがない。
――ここはどこだ?
外灯一つない山道。道が舗装されているから人通りはあるのだろう。だが誰が、どこへ、どこから?
――なぜ、こんなところに?
誠は足を止めて、自分が歩いて来た道を振り返る。道の脇、背後の闇に紛れて真っ黒に塗りつぶされた塊が、ぬぼうっと佇んでいるのが見える。
あれは家だ。誠はそれを知っている。広くて古い家。
――自分はあそこから来たのだ。
だが、どこへ向かっているのか。行く先を再度照らすも、ただ黒々とした闇が凝っているだけだった。
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