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夜の夢。また誠は一人で歩いている。
道は一本道、懐中電灯で周りを照らしても、道の両側に密集した木々がその向こうを覆い隠している。灯りに照らされた木肌の影が、光に照らされてゆらゆら揺れる様は不気味だ。それが頭上まで伸びていて、梢を広げる様はまるで巨人にでも囲まれているように思える。
相変わらず、すれ違う人もいない。
背後の黒い家は豆粒ほどの大きさまで遠ざかっている。ふと疑問に思った。なぜ、あの家はこの闇の中でもはっきりと目に見えるのだろうか。この闇にも負けぬ『黒』。
家ならば人がいるはずだ。それに灯りだって。
――庭灯。
そうだ、あの家は便所が外にある。だから夜中など用を足す際のために庭に灯りが取り付けてあったはずだ。一つは便所の屋根、もう一つは厩。
そう、あの家には馬がいた。厩の脇には鶏小屋が、あと犬も一匹飼っていたはずだ。
夢の中だというのに、誠の全身が泡だった。なぜ、そんなことを知っているのかわからない。けれども知っている。
一度思い出せば記憶はさらに蘇る。あの家にはいつも人が沢山いて、夜中でも大体誰かが起きていた。なのに眼下の家は真っ黒で、しかも無音。あの家にいた人たちは、いったいどこへ行ったのか。
豆粒程だった黒い家は、誠の歩みにつれてどんどんその姿を遠ざける。ついには木々の向こうに完全に隠れてしまって…ようやく両側を覆う山林が、ぽっかりと脇道を開いた。
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