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広く開け放たれた窓から、橙色を纏った桜の花びらが飛び込んできた。さっき外を見た時は、真っ青な春の空が一面に広がっていたのだから、相当の時間考え込んでいたらしい。 外に見える校門の前には、友達を待って下校するのであろう生徒の姿が複数ある。そのうちの一人の胸に、新入生であることを示す萌葱色のバッジが止まっているのをみとめて、(あん)は凝り固まった目尻をほんの少し和らげた。4月の優しい夕日を受けて照り映えるそのバッジは、杏が昨年この高校に入学した頃につけていたものと同じである。忙しなく日々を過ごしているうちに、サッと一陣の風が吹き抜けるようにして青春はすぐ脇をすり抜けて行ってしまう。 大きくぐうっと伸びをすると、杏はもう一度視線を目の前の机に戻した。忌々しい空白との戦闘は続いている。なんてことは無い、ただのアンケートのはずなのに。 ――今までについた一番の大嘘は? 人の気配のない空の教室に、杏のため息だけが感情の重みを伴って、辺り一面に満ち満ちていく。大嘘。大嘘、大嘘。 なんてことは無い、新聞委員会の作成する学校新聞の紙面の隅っこに申し訳程度に設けられている、『読者の投稿』コーナーのたった1問だ。 その、なんてことは無いコーナーのために杏の貴重な青春はまた1秒1秒と早足を刻みながら立ち止まることはなく通り過ぎていく。 ――今までについた一番の大嘘は? 心当たりがない訳じゃあない。何しろ、今まさに大嘘を積み重ねている最中なのだから――。
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