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橋本瑠偉。その名前を口の中で小さく転がすと、目の前に光が満ちて、わくわくしたような気持ちになる。 だって、橋本瑠偉は愛美にとってのヒーローだからだ。
――美術部のあの子も、瑠偉の存在があったから最後の一歩を懸命に踏みとどめていたのかもしれない。
そう思えるほどに彼女のキャラクターは徹底していた。瑠偉はクラスメイト全員に毎日欠かさず話しかける。単純なことだけれど実際にやるとなるとこれがなかなか骨が折れる。そしてそれは、孤独と絶望に陥った人間たちを守るには十分な行動だった。
本当に誰からも忘れ去られた時、路傍の石と化した時、人間の心がか細い音を立てて折れるのはその瞬間だ。
誰にでもできるようなことで、人間を助ける。ちっぽけだったかもしれないが、愛美にとって瑠偉は間違いなくヒーローだった。
愛美は、瑠偉になろうとして、真似して、失敗した。黒川さんをつなぎ止めておくことが出来なかった。
瑠偉を知ったあの日のことを思い出す度に、羨ましくなって憧れて、それから情けなくなって、また少し、自分を嫌いになる。
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