ありがとうの庭で咲く花たちへ

　勤務先の学校へと続いている道路の両側には、びっしりとソメイヨシノが並んでいる。
　何もないように見える枝先は、早い春の訪れに誘われたのか小さなつぼみをつけはじめていた。
　暖房がいらない温かい日は数日続くらしい。

　この調子だとあと１０日もすれば、ピンクの花びらが青空を塗り替えるように覆いつくしているだろう。
　３月中旬のこの時期に咲きはじめるなんて、教師をはじめてからあっただろうか。

　校門がうっすらと先に見える交差点で、赤信号をぼおっと見つめていると、頭の中に映し出される光景が一年前の４月にするすると巻き戻っていく。
　……昨年は桜吹雪の中で、１年が始まったんだっけ。

　最初のホームルーム、体育祭、文化祭、修学旅行。それに……大晦日の神社詣り。
　緊張した顔、一生懸命な顔、悔しそうな顔、満面の笑顔、泣き顔、楽しんでいる顔、不安な顔、希望に満ちた顔。

　一年間の間に見た生徒たちの表情が次々と浮かんでは消えて。
　懐かしさに浸っていたところにパァンとクラクションが鳴り、意識がぐっと現実に引き戻される。
　青に変わった信号が目に入り、アクセルを踏み込んだ。

　この一年、あっという間だったな。