ありがとうの庭で咲く花たちへ

4/17
前へ
/17ページ
次へ
 「第20回毎星高校卒業式」と書かれた看板が立てかけてある校門をすり抜け、車を駐車場に停めて外に出ると、傍の桜の木の下で一人の女子生徒が校舎の写真を撮っていた。  藤色の長い髪がふわっと風に浮かび、幼さを少し残す横顔を覆い隠す。  「出逢さん」  「あ、先生」  「何撮ってるの?」  「いろいろかな……今日で最後だから」  手元のカメラで切り取った風景を、名残惜しそうに目を細めている。  「ねえ先生、見て」  白くみずみずしい指が示す先に、淡色のつぼみが一つ。  「もうすぐ咲きそうだよ」  「ほんとだね。みんなの旅立ちをお祝いしたくて、急いだんじゃないかしら」  木全体に目を向けると、無数のつぼみがやがてやってくる春を待ちわびているようだった。  「どうしたの?」  ひととおり眺めて目線を下げると、彼女が私の顔をじっと眺めている。  「……昭島先生はやっぱり、国語の先生だね」  ふふふ、と小さく笑う彼女。  「桜が咲くのって、温かくなった外気を葉が感知して、成長を促進させる植物ホルモンを刺激するからなんだよね。だから、温かい日が続く今年は例年より早く……って、そんなことじゃなくて」  手元のカメラをゆっくりと持ち上げ片目をつむる。  パシャ。  「わたしたちが口にする言葉がわたしたちの世界を作る……だったよね? 先生」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加