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「第20回毎星高校卒業式」と書かれた看板が立てかけてある校門をすり抜け、車を駐車場に停めて外に出ると、傍の桜の木の下で一人の女子生徒が校舎の写真を撮っていた。
藤色の長い髪がふわっと風に浮かび、幼さを少し残す横顔を覆い隠す。
「出逢さん」
「あ、先生」
「何撮ってるの?」
「いろいろかな……今日で最後だから」
手元のカメラで切り取った風景を、名残惜しそうに目を細めている。
「ねえ先生、見て」
白くみずみずしい指が示す先に、淡色のつぼみが一つ。
「もうすぐ咲きそうだよ」
「ほんとだね。みんなの旅立ちをお祝いしたくて、急いだんじゃないかしら」
木全体に目を向けると、無数のつぼみがやがてやってくる春を待ちわびているようだった。
「どうしたの?」
ひととおり眺めて目線を下げると、彼女が私の顔をじっと眺めている。
「……昭島先生はやっぱり、国語の先生だね」
ふふふ、と小さく笑う彼女。
「桜が咲くのって、温かくなった外気を葉が感知して、成長を促進させる植物ホルモンを刺激するからなんだよね。だから、温かい日が続く今年は例年より早く……って、そんなことじゃなくて」
手元のカメラをゆっくりと持ち上げ片目をつむる。
パシャ。
「わたしたちが口にする言葉がわたしたちの世界を作る……だったよね? 先生」
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