1人が本棚に入れています
本棚に追加
いつも自分ルールで動く奴だった。
世間体はおろか一般常識だとか習わしだとか、そういうものに縛られず我が道を行く人間だった。とはいえ、それが別段誰かにとって迷惑だったりはしなかったから、あいつの周りにはいつも誰かがいた。
誰かがいて、そうしてあいつは、おそらくいつも一人だったんだろう。
その姿が妙な孤高を描いていて、僕は実はひっそりと憧れていたのだ。あいつにとっては、結局僕は誰かの中の一人だったんだろうけれど。
ベランダのガラス戸を開くと、今日も多摩川は朝日に輝いていて青空を映している。
「本日はお日柄もよく仏滅」
ため息を吐くのを濁すように僕は呟いてみた。声は誰かに拾われることもなく、そのまま多摩川の光に溶け込んでしまう。
連絡を貰っていた。ということは、あいつの友人の一人としてはカウントに入っていたのだろう。そのことが僕にはちょっと驚きで、ちょっと嬉しくて、盛大に悲しかった。よりによってこんな連絡を受け取るなんて。
本当なら正装をして向かわねばならない。のだが、ときすでにおすし。いくら焦って準備をしてももう間に合わない。あいつの旅立ちには。
足元にすり寄ってきた猫を抱き上げて、僕はもふもふと腹に顔を埋めた。
「僕は最低な人間だ……」
憧れの人の大事な日に、僕はいまだよれよれの寝間着のままぐずぐずと鼻を鳴らしている。
連絡を受け取ったときからもうどのくらい傷んだままだろうこの心は。
本日はお日柄もよく…… 仏滅。
最初のコメントを投稿しよう!