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臣人は空になったビール缶をねじって、小さくつぶした。音もなく缶はつぶれてしまった。
今まで口にしたことのないことを話そうとしていた。
一度もバーンに伝えたことのない自分の正直な気持ち。
どうしても言えなかった自分の本心。
あの時からずっと自分の心の奥底にしまっておいた本音を言う決意をした。
臣人の声のトーンは沈んでいった。
「自分でいうのも何やけど、わいは小さい頃から『術』も『技』も何でもそれほど苦でなくこなす子やった」
「………」
バーンは臣人の横顔を見ていた。
「子どもの頃は妙に大人びいて、『世の中でわいのできんことはない』、そう思とった」
その小さくなった缶をもてあそびながらさらに続けた。
こんな臣人をバーンは見たことがなかった。
彼も初めて見る臣人だった。
いつも底抜けに明るくて、冗談ばかり言って浮かれている彼ではなかった。
「何をするのもつまらん。きっと天狗になってたんやろな」
「………」
缶をもてあそんでいた手が止まっていた。
バーンの視線は臣人の横顔から砂浜の波打ち際に向いた。
そこまで話して、臣人は黙り込んだ。
暗い声で、ひとつひとつの言葉の重さを感じているようにまた話し始めた。
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