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「いつも、何かが足りん。わいはいったい何のために生きてるんやろ? 何を成すためにいるんやろ?と、疑問は膨らむばかりやった」
「臣人」
バーンは暗がりの中で彼の横顔を見ていた。
臣人は少し顔を上げて海の方を見つめた。
「17才でじじいの代わりに、大きな仕事任されて、アメリカに来た。そのとき彼女に会うた」
「………」
「ラティからお前の退魔行の依頼を受けたとき、初めて会うたとき、直感したんや」
「………」
初めて臣人がバーンと視線を合わせた。
「わいとお前は似たもの同士やと」
「………」
「鏡に映る右と左や」
「臣人…」
「人とは違う『力』を持っとることもあるけど、ほんとうに欲しいもんがあるのに、どうすることもできずにもがいてる。…そんな気がした」
臣人は視線をはずすとまた下を向いた。
「あの時、」
7年前のあの出来事を思い出していた。
自分の横をすり抜けて走り去っていったラシスの姿を思い出していた。
一瞬の差で、彼女は。
バーンの方へ駆けていく彼女の後ろ姿。
あとにはほのかに、オレンジの香りが残っていた。
「わいの結界から飛び出していった彼女の肩を、…腕を、この手でつかまえられていたら」
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