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臣人は自分の両手をぐっと握りしめて、見ていた。
悔しそうに唇を噛みしめたまま、あのとき掴めなかった彼女の腕が見えた。
「彼女を引き止めることができていたら、死なずにすんだんやないやろか?」
(あのことがわいにとっては、人生ではじめての、最大にして最悪の…)
あの夜、自分が間違っていたことに気がついた。
自分の生き方も、考え方も。
何もかもが崩れた。
後悔しても後悔しきれない。
もう後戻りはできない。
そんな思いだけが残った。
それは人ひとりの命を奪い、もう一人、彼の人生を狂わせてしまった自分自身に対する怒りでもあった。
バーンはうなずきもあいづちもせず、臣人の話を聞いていた。
「もし、わいがっ」
「もう、言うな…」臣人の言葉を途中で静かに遮った。
「バーン」
驚いたように彼の顔を見返した。バーンは冷静に、淡々と話し始めた。
「いくら言ったって、あいつは還ってこない……。俺が生きていようが、死のうが、もう二度と…あいつには逢えない」
彼は、遠い眼をしながらつぶやいた。
彼女の姿を追っているように彼方を見つめていた。
「そやけど、」
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