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蝉鳴く頃 7
『本郷亭』を出て一ノ瀬と歩いていると、駅と歩道橋の分かれ道に出た。
駅からちょうど出てきたらしい、香織と目が合った。
「あれ?美和?」
香織が目を丸くしている。
「香織」
「あら。あらあら。」
香織は頬に手を当ててにやにやしている。
「俺、今日この後用事あるから、帰るわ。」
「うん。またね。」
駅に向かう一ノ瀬が振り返って手を振っていた。
美和も手を振った。
「で?どういうことかな?美和サン?」
「ど、どういうことって?」
「珍しく男子と2人きり。デートじゃん?」
香織のニヤニヤが止まらない。
「デートって…予備校でばったり会って、ラーメン食べてただけよ。」
「本郷亭?」
「うん。一ノ瀬くん、お気に入りのラーメン屋なんだって。」
「そうか…。あれが噂の一ノ瀬くんね。いい舌を持ってるわ……じゃなくて!」
「じゃなくて?」
「いやいやだから、ばったり会っただけでご飯一緒に食べに行かないでしょうよ。」
「うーん、でもホントばったりだったし…」
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