2.預言の解釈

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2.預言の解釈

 最近島がざわついていたのには、長年分からなかった預言の『赤い花開く時』の意味を、クババが解き明かしたと告げたからだ。  今まで、赤い花と言われ、ニコの島においてぴんと来る物はなかった。熱帯な気候は昆虫や、動植物にとっては楽園であったし、赤い花ならいつでも咲いていたからだ。しかし島は終わらなった。何代も、王や、島の知恵者がその解釈に頭を悩ましたが、いずれも説得力を欠いていた。  だが今回クババが示した解釈は、(正確にはほかの誰かがつぶやいた言葉を横取りしただけなのだが、)一定の信ぴょう性を持っていた。  島の、茂みを分け入った先に、澄んだ泉がある。そこには蓮のような植物が何本も生えていた。  この植物は島固有の花であり、「ロ・カ」と呼ばれている。ロ・カは水面に、蓮に似た、白く大きな花を咲かすが、それの珍しいところは毎年花をつけない点に尽きる。むしろ一生のうちで、咲いているところを見るほうが難しい。なぜなら数百年に一度、一日しか咲かないからだ。また不思議なことに、朝日と共に、一斉に花開くのだという。  クババは言った。 「王に伝わる記録を見返すと、ロ・カが、前回咲いたのは二百年も前のことだ。預言の『赤い花開く時』はつまり、ロ・カが花開く時に違いない」  そう言うクババに、誰かが恐る恐る尋ねた。 「しかし……女王、ロ・カは、白い花だと聞きます。確かにここ数週間、つぼみをつけ、それが膨らみつつありますが……」  その疑問を、クババは鼻で笑った。 「ハッ。馬鹿かお前は。ロ・カが咲くのは夜明けと決まっている。朝日がこの白い花を、赤く染めるのだ!」  島民は、おお、と感嘆の声をもらした。 「だから私は、女王として、お前たちに命じる。ロ・カが咲く前に、そのつぼみを全て刈り取れ。さすれば島が終わるのを食い止められよう」  示された希望に、島民たちの士気が高まった。クババをほめたたえる声に、彼女は気分を良くした。  しかしそこで、マハが意見を口にした。 「仮にそうだとして……『赤い花開く時、島が終わる』のならば、ロ・カが実際、開花するかどうか、関係ないのではないですか? 時期のことを言っているのであれば、」  そんなマハを、クババは激しく殴りつけた。マハは地面に倒れこみ、口の中で血の味がした。島民が息をのむ中、クババの怒声が響く。 「うるさいんだよ! お前は! 私の意見に文句があるっていうのか!?」 「いえ……ただ、最悪避難が必要なのではないか、と思いました」 「どこにだよ!? ここがみんなにとって一番幸せな場所なんだ! この島以外に、どこに行くっていうんだ! ねえ、みんな、そうでしょう?」  女王は口許だけ歪んだ笑みを浮かべ、金の目玉をぎょろりとさせて、ひとりひとりを見渡した。  島民たちは、蛇に睨まれた蛙のように動けないでいた。こくこくと頷いて服従の意を示したり、または内心ではマハと同じ疑問を抱いていた何人かは目を背けた。その何人かを目ざとく見つけると、クババは近づいて、平手で打った。 「いいか、私の言うことは絶対だ。私は特別なんだ。死にたくなかったら言うことを聞け。さもなくば全員死ね」  そう言い残すと、不機嫌そうにその場を立ち去った。  島民たちは、気まずそうに目配せすると、やがて女王の命令を聞くために泉へ向かった。
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