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1.ニコの島
ニコの島は、世界地図に載っていない、太平洋上のどこかにある島である。島民は三十名ほどで、彼らは外の世界を一切知らない。
小さな島は周りをきらきらとした青い海に囲まれ、島の中心には赤茶けた岩山がそびえ立つ。朝日はその山頂より昇り、夕方になれば水平線にゆっくりと沈んでゆく。
そんなゆるやかな島が、近ごろはにわかにせわしなかった。
それというのも、ニコの島にはひとつの預言があったからだ。
『赤い花開く時、島が終わる』
預言はひとこと、そう告げた。
いつ、誰が、というのは定かではない。しかし百年ほど前からあり、代々の王がそれを管理していた。
いま、ニコの島の王は、クババという女王である。
この女王は、横暴で、気に入らないことがあるとよく当たり散らした。クババというのは島の言葉で”知恵”という意味があったが、賢しげにふるまうばかりで、努力というものが嫌いだった。彼女にとっては、地位とか、権力とか、そういう最初から手に入るものが重要だったのだ。
だから彼女は、自分の一風変わった容姿もえらく気に入っていた。
島民のほとんどは、褐色の肌と黒髪であった。しかしクババは、白い肌に、白い髪、瞳は金色をしていた。
このような容姿は、少なくともこの島では彼女ひとりで、彼女はそれに自身の特別性を見出していた。神に選ばれた証なのだと、信じて疑わなかった。そのくせどこか懐疑的で、自分を悪く言う者がいないかと、常に大きな目玉をぎょろりと光らせた。
島民は、ややかんしゃく持ちな彼女に手を焼いたが、この島で一番偉いのは王である。なので仕方なしに、彼女に従った。
ところでもうひとり、変わった容姿を持つ者がいた。マハという少女だ。彼女は十年前、まだ小さな子供の頃、ただひとりこの島に流れ着いた。つまりは島で唯一、外の世界の象徴であった。
マハも、女王ほどではないが白い肌に、淡い茶色の髪を持っていた。しかしそれが女王の怒りに触れ、マハは島の奴隷である。
ただ、マハは奴隷として虐げられてもめげなかった。普通の子供であれば、あるいは大人であっても、その苦境に屈したり、泣き言のひとつでも言うだろう。しかし彼女は常に尊厳を忘れず、口数こそ少ないが凛としていた。そうしていられるのには、マハだけの秘密があったのだが、彼女は島民の誰にもそれを明かしていない。
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