黒蝶(くろちょう)

1/53
前へ
/53ページ
次へ
 絶対に秘密。  また見てしまっている。  右手親指、第一関節の上にある、平たい形のもの。  正方形の角を少し丸くして、綺麗に切り取られたような、かまぼこのような形。 「うん? わからない?」  家庭教師の上村雄二が私の顔を覗いた。  その瞬間、私は我に返り、動揺する。漫画の単行本くらいの厚さの、開かれた青い問題集。  開かれたページには数字や記号が並んでいる。  だめだ、集中しなくては。  そう自分に言い聞かせ、その数字や記号を訝しげに見つめた。  わからないフリをしなくては。  だって、親指の爪に見とれてた、だなんて言えないし。  言ったところで、先生は私のことを変だと思うだろう。  「うん?この問題がわからない?」  先生が私の視線にある問題を指差した。  あぁ、違う。人差し指じゃないんだってば。私が好きなのは……。  でも、人差し指なら大丈夫。これなら集中できる。 ***  学校の売店で買ったピーチーティーの紙パックに、ストローをさしながら嬉しそうに優子は言った。 「ねぇ、シオリちゃん、この前ネットフリックスで配信された、『魔法少女ミカるん』
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加