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そう言って前屈みで平田は立ち上がり、よろよろと会場の出口付近にあるトイレに向かった。
その平田の後ろ姿がなんとも痛々しい。映画館にも着ていたヨレヨレのグレーのロングTシャツ。そのTシャツの背中の真ん中に、拳くらいの大きさの汗染みがじわりと広がっていた。
私はその汗染みのついたTシャツがトイレの方に消えるまで、何かに圧倒されたように立ちすくんでいた。
「平田君、大丈夫かな? すっごく顔赤かったね」
「えっ? あ、うん」
優子の声で我に返る。
平田、大丈夫? いや、大丈夫じゃないんじゃない? だって、平田、私になんて言った?
多分、ーーー、って言ってた。
うん。言ってたよ。絶対。
「はー。それにしてもひかり様、ホントに可愛すぎでしたぁ」夢見心地で優子が呟いた。
ウインクをし、制服を着たミカるんがプリントされた大きな紙袋。平田がさっきまで座っていた場所に、残された平田の荷物が無造作に置かれている。
ミカるんは無感情にウインクをしている。
***
「あぁ、ほっ、ほんと、すっ、すみません……」
ボソボソと俯き加減でそう言った平田はいつもの平田に戻っていた。
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