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シトラスの香りが広がった。
頭で引っかかっていることが、このシャワーの水みたいに、排水溝に流れてしまえばいい。
流れろ!
バスルームを出てタオルで身体を拭く。洗面台の鏡に映ったのは血色のよくなった自分の姿。
ほんのり赤く染まった肌。
急いでパンツとブラジャーをつけて、ボーダーのロンTとデニムを履いた。
髪を乾かして、不思議の国のアリスの柄がプリントされたトートバッグにスマホと財布だけを入れて、スニーカーを履いて、勢い良くドアを開けた。
早く、早く、早く行かなきゃ。
やり遂げなきゃ。使命感に駆られた私の心は急いでいる。
秋の涼しげな風とは対照的に小走りの私は既に汗をかいている。
確か、うちの最寄り駅から三つくらい乗った駅だった。あの場所は。
ホームは土曜の朝だからか、平日より人が少ない。
待合い席に小さな男の子とその隣にその男の子の祖母だと思われる、七十代くらいの女性が座っている。男の子が何かのおもちゃで遊んでいた。
「こうやって、こうするの? うわーぁすごい。本当だぁ。蟹だぁー!」
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