序章

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突然泣き出した男性を相手に冷静でいられるほど瑞希(みずき)の人生経験値は豊富では無いが、(りつ)にはたまにそういう人も来るから万が一来たら茶を出せ、と教わっていたのだ。 「えっと、店主が戻ってくるまでお話をお伺いしても……?」 これも教わった通りにしているだけだ。そういう人は何かしら事情がある、無下にせず話を聞くように言い聞かせられている。 「は、はい……この人形……どうしても手放したいのですが……捨てても戻ってくるんです……」 震える声で頭を抱えてポツポツと語り出す男性の顔色は並々ならぬ気配を纏い、傍から見るとゾッとしてしまいそうな気迫を纏って信じられないものや、恐ろしいものを見るような様子で卓上に置かれた人形を見つめている。 怪談でもよくある話だが実際にも起きているとは思いにくい。然し男性の顔に嘘は見受けられない……真に迫り信じて貰えなくとも伝えようとする意思すら感じる。 「この人形、人形を手直ししたり作ったりするのが趣味の家内が拾ってきて……手直ししてたのですが、ある日突然……家内が焼身自殺したんです……私と人形に宛てて……謝り続ける遺書だけを残して…… それ以降私も奇妙な夢を見始めたんです……毎日毎日……泣き叫ぶ声が耳にこびりついて……人形が来てからおかしくなってきたんです……だから手放したいのです……」
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