『うそつき』

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 次の日学校で、ゲームセンタ『gogo paradise!』に行ってはいけません、今まで誰か行ったことはありますか、という学級会が全学年であった。 なんだか心配よりも、面倒くさくなってその日以来、みんな『go go paradis!』に行かなくなった。わたしも、なぜか行ってはいけない気がして避けていた。  その後、ゲームセンターを訪れたのは二年後、六年生になってからだった。 お小遣いもみんなほとんどが、月に千円はもらえるようになっていて、自由に使えるようになったのと、ちょうど空前のインベーダーゲームのブームがおこっていて、みんなで『go go paradise!』に見に行ってみよう、となった。  店に入ると、いつもの知っている雰囲気と違っていた。インベーダー以外、置いてあるゲーム機はほとんど一緒で、流れている古いディスコミュージックも変わらないのに、何か違和感があった。 あの知っている従業員のお兄さんたちが一人も見当たらなかった。頭の半分禿げたおじさんが、コインメダルのカウンターに座っていて、小太りの脂ぎった偉そうな人が、店の中のゲーム機を見て回っていて、わたしたちを一瞥した。店のトイレでは背骨のまがったおじいちゃんが、雑巾を持って掃除をしていた。  看板には『go go paradise!』と名前は変わっていなかったが、わたしの知っているゲームセンターは完全になくなっていた。  昔のゲームセンターには多少のインチキがあって、嘘があった。小さな夢が透けて見えるようで楽しかった。  ずいぶん大人になって知ったことは、あの時のわたしたち小学生のガキンチョを相手してくれていた従業員のお兄さんたちは、あの未だ角ビルにたむろしている胡散臭いサングラスの男たちに、どこかへ連れて行かれ、そして二度と『go go paradise!』に来なくなったこと。  優しいお兄さんたちは、何か嘘をついていて、ひょっとしたらつかざるを得なくて、いっつも嘘だらけの社会で生きている変な大人たちに傷つけられた。 わたしも今は嘘をつく。 誰も傷つかない、たぶん人には迷惑はかからなくて、傷つくのは自分の良心と、死んだら地獄に堕ちるだけの、嘘。 優しい嘘、甘い嘘、いい加減な嘘、 有難い嘘、痛みのない嘘、罪のない嘘、 本当の自分は、どれでもない。 嘘は楽しい。わたしはうそつき。 そんなわたしでいい、と思っている。
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