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彼女の事
私が彼女に初めて会ったのは、高校1年生の時でした。
席が、隣だったんです。
私は新しい環境に凄く緊張してて、行き遅れたら駄目だって息巻いてたんです。
でも私の席の前も後ろも左も、みんな男の子で。このままじゃ友達が出来ない。どうしようって悩んでたんです。
彼女は始業のベルが鳴る5分前くらいに教室に入ってきて、その日では結構遅い方でした。
私は焦ってその子に話しかけました。気のいい感じの子で、何となくこの子とは仲良くなれそうだな、私と似てるなって感じたんです。
彼女の名前は机の上に置かれていた名簿で知っていました。
多分、彼女もそうです。自己紹介とかはなしに、スムーズに好きな漫画の話や入る部活の話をしました。
その日は先生が入ってくるまでの数分と、入学式が開催される体育館に行くまでしか話せませんでした。でも、その子と少し話せただねでも私の中にある不安やプレッシャーはかなり少なくなってたんです。
本当に、仲良くなれると思っていたから。
私の初めの予想通りに私たちはよく話すようになりました。
4月の頭に2週間だけ行われる部活見学も一緒に行って、流れで同じ部活に入ることになりました。バレー部です。私は中学時代バレー部ではありませんでしたが、昔少しやっていたことがあって、他の部活よりは抵抗が少なかったんだと思います。
彼女も昔少しやっただけだと言っていました。でも、多分それは嘘だったんだと思います。
少しずつ噛み合わなくなっていったのは夏休みに入った頃……それか入る前だったと思います。
4月の間に私たちは2人から4人グループになって、数回遊ぼうという流れになったことがありました。
正直、そのうちの2人とはあんまり合う気がしませんでした。私とは全然違うタイプだったので。ても、私は遊びを断る事はしませんでした。2人ともいい子だったし、まだ知り合って日も浅かったから。
けれど彼女が私たちの遊びに参加することは最後までありませんでした。
参加しないというより、正確にはドタキャンでした。遊ぼうと言う話になった時は行く、とそういうのです。けれど集合時間の30分まえくらいに必ず、頭が痛いとか妹の世話だとかで参加できなくなる事がちょっちゅうでした。
彼女は我が道を行くタイプで皆で雑談をしているときなんかも輪の中で1人、予習をしていたりこれみよがしに洋書を読んでいました。
多分ですけど、私以外の2人はその頃から彼女とは距離を置いていました。
もうそれが当たり前になり、彼女が会話に参加していなくてもそれを気にする人はいなくなりました。
夏休みに入って、必然的に彼女と顔を合わせる回数が増えていきました。人数があまり多くない部活だったんです。
彼女は1年生の中で1番バレーが上手くて、同級生より先輩とばかり一緒にいました。
先輩と一緒にいる時に彼女は大声で話し、笑うのです。普段はどちらかと言うとそっけなく淡々としているのに先輩、あるいは男の子と話している時はまるで目立ちたいかのように大声を出して、大きな声ではしゃぎ始めるのです。
私はそんな姿に言いようのない不快感を覚えていました。そして、夏休みが明ける頃にはすっかり彼女のことが嫌いになっていたのです。
それからは地獄でした。部活でも教室でも彼女がいる状況が嫌で仕方ありませんでした。
彼女のささいな自慢話も笑って流す事は出来なくなっていきました。
段々と私は彼女の自慢話が嘘と矛盾で溢れていることや、彼女が異様なまでに異性とのエピソードを話したがることを、脚色を加えながら言いふらすようになりました。
運が良かったのか悪かったのか、大勢の人にその話は共感され、彼女の不満を共有した子と私は親密になっていきました。
夏も秋も過ぎて冬に入った頃、大きな問題が起きました。
皆が何気なくその子を避けるようになりました。はじめはただの予感でした。そう感じるだけで、具体的に避けていると言う事は指摘できない。そんな程度のものでした。
でも段々とその行為は見えるようになっていきました。私たちのグループは次第に3人グループへと変化して、教室移動の時はまるで誰かにつけられているかのようにそくささと急ぐようになりました。
でも、彼女は何も言いませんでした。私たちから離れることもなく、常に後ろについてきていました。
当時の私はそれさえも不愉快だったのを鮮明に覚えています。私の身に何が起こったのか、彼女に対して私は嫌悪に近いものを抱いていました。
彼女を一目見るだけで嫌な、黒い気持ちが湧き上がってくるのです。
学年が上がって、クラス替えがありました。
私は心の底から彼女とクラスが別れることを望んでいました。けれど、その願いは儚く散ることになります。
また、隣の席でした。1年前と同じ光景です。私たちの間に会話が一切無かったことだけが、昔とは違いました。
私は部活をやめて、それからは…知っての通りです。
学校を辞めた理由もそうです。彼女の存在を認知するだけで、声を聞くだけで、名前を聞くだけで耐えようのない不快感に襲われました。それは他の何でも埋められません。
私は最大限譲歩しました。私は彼女から離れたかっただけです。トイレに連れ込んで水をかけたり、上履きに画鋲を入れたりなんてしませんでした。本当に私は離れたかったんです。だから、彼女もそれを察してわたしから離れてくれれば良かったんです。
久しぶりに再開したのが半年前です。彼女は見知らぬ友人と一緒に歩いていました。目があって、話しかけられました。彼女を通して紹介された後、彼女は何かを言っていました。
私は限界だったので早急にその場を離れようとしました。私はその時、とある目的のために用意したものを衝動的に使ってしまう恐怖に支配されていました。
私が別れを告げて少しあとに、彼女の耳障りな声が夜道に響きました。
それをきっかけに、私は完全衝動に支配されました。
一度目は顔を刺していました。慌てて、胸部のあたりに突き刺しました。けれどそれが上手く刺さっていないことが分かって、目に突き刺すことにしました。
彼女と一緒にいた子達はすでにいなくなっていました。
カッターナイフだったから、不安だったんです。
念入りに何度も刺しました。刺してからねじったり、ひいたりもしました。
カッターナイフが使い物にならなくなっても、彼女はまだ動いて何かを発していました。
それが嫌で、本当に嫌で。首を絞めました。そしたら、ようやく大人しくなってくれて、安心しました。
……久しぶりに穏やかな気持ちになれました。全てを失ったとさえ思っていたのに、心が満たされて明るい未来とそして希望を感じました。
なのに、彼女。まだ分かってくれないみたいです。私はただ、貴方と離れたいだけなのに…………。
ほら、まだそこで私のことを睨んでるじゃないですか。
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