第一章 転機

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 ――なにが大丈夫よ! 平気なわけないじゃない! そうじゃなかったら、あの子の笑った顔が、今にも泣きそうなのを堪えてるように見えるはずないでしょ! 榴のバカ!  廊下を歩きながら、内心で言葉を吐き出していた。  深呼吸をして、ふと足を止める。  振り返って図書室を見て、彼女は言葉を紡いだ。 「もう、あんな思いをしたくないのは分かるよ。私も同じ」  ――だけどね、榴。……どうしようもないくらいに傷ついたのに、それを癒そうともしないで……。どうして普段通りにしていられるの……? ただでさえ、ボロボロなのに。それを必死になって隠す理由はなに? せめて自分の親くらい、いい娘を演じるんじゃなくて、素直になりなさいよ。私といるときだけじゃなくてさ。それに、今のあなたは、あのとき以上に辛い思いをするような気がする。そんな必要はないのよ……。  玲衣は内心でそう思いながら、窓に視線を向けた。  その頃、榴はというと早めに切り上げて教室に戻り、授業の準備をしていた。  彼女は玲衣に言われたことを考えていた。途中で遮ったから良かったものの、その通りだった。誤魔化せるはずがないと分かっていても、そうせずにはいられなかった。自覚をしながらも、あえて考えないようにしてきた。一度考えてしまえば、そこから抜け出せないような気がしていたから。  ――なんで今さら、こんなこと考えたんだ。  溜息を吐いて、それを振り払った。
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