序章 始まり

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序章 始まり

 春の訪れを感じさせる頃、一人の少女が高校に登校している。彼女の名前は(りゅう)。見た目は十代後半。身長は一五〇センチほど。ショートカットの黒髪に、端正で中性的な顔立ち。ブレザーにスラックス、制服を着ている。普段から男口調なので、よく男子だと間違われる。  校門に人だかりができている。近づくと男女問わず怯えていた。普段であれば、中庭が見えるのだが人だかりに隠れてよく見えない。それでも、校門のすぐ脇に生えている木だけはよく見えた。 「またか……」  榴は溜息を吐いた。  彼らの先に視線を向けると、近所の暴力団が入り口を占拠している。そんなのとは縁のない学園なのだが、彼らが暴力団の中では弱いのだろうか。こんなことをして、自分は強いのだと威張りたいだけなのかもしれない。  ――面倒だな。こんな奴らと関わりたくないが、このままにしておくわけにもいかない。なにより、あいつらが邪魔だ。  そんなことを考えながら、人混みを掻き分けて、中庭を歩く。自然と彼女に視線が集まるが、当の本人は気にしていない。  苛立ちを露わにして、中庭を抜けた先の生徒玄関に向かうが、暴力団の男が二人、立ち塞がる。 「退()いてくれ」 「ここから先は誰も通すなって言われてんだよ」 「頭、昨日他とやり合ったんだけど、負けちまって荒れてんだ。収まるまで待ってもらえねぇか」 「知るか、そんなこと」  彼女は低い声でそう吐き捨てた。 「てめぇ!」 「ここは負けた貴様らが、優越感に浸る場所ではない! さっさと去れ!」  リーダーの男が、彼女に歩み寄る。 「ずいぶん、偉そうな女だな。一発殴って……」  ――なんだよ! この女……。  榴は殴りかかろうとする男を睨んでいる。よく見ると拳を振り上げたまま動けずにいる。  彼女の纏う空気は怒りに染まっている。 「殴れるものなら殴れ」  そう言って、冷ややかな笑みを浮かべる。 「女一人にこの様じゃ、貴様のプライドが許さないのかもしれないな。私にはどうでもいい話だ。失せろ」  そう言って、生徒玄関に入っていった。 「喧嘩売ったこと後悔させてやる! 俺は野崎! 名前覚えてろよ!」  振り返ってそう言うと、彼らは学園を去った。
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