求婚

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求婚

 男は恋人を連れて医師のもとを訪ねた。 「ここのところ、どうも彼女の様子がおかしくて……」  ただならぬ表情の男。身振り手振りを交えながら彼女の異変を訴える。が、具体的な症状がうまく説明できず、〝何かがおかしい〟と主張するばかり。見かねた医師の判断で、彼女は精密検査を受けることになった。  検査が終わり、待合室で時間をつぶしていると、なぜか男だけが診察室に呼ばれた。 「レントゲンをご覧ください」  医師は彼女の胸部が映し出されたレントゲン写真を指差した。 「これは……」 「見てのとおりです」  なんとそこには、一輪の花が咲いていた。 「どうやら彼女は、大きな悩みを抱えているようですね。何か心当たりは?」  どこか気まずそうにモジモジする男。大げさに考えるフリをしていた男は、観念したように吐露しはじめた。  酷い浮気グセ。ギャンブルに明け暮れる浪費グセ。酒浸りの毎日。彼女と言い合いになれば、時に手を出してしまう暴力癖。 「なるほど。あなたが彼女の心に、悩みのタネを植えつけてしまっていた、ということですね」 「タネ?」 「ええ。花が咲くからには、どこかにタネがあるわけで――ただ、タネを植えたからといって、必ずしも花が咲くわけではない。あなたの愚行を受けて、彼女はどんな反応を見せていますか?」 「お恥ずかしい話ですが……夜な夜な、彼女はひとり、泣きじゃくっているようです」 「ほうら。彼女は毎日せっせと、タネに水をやっているわけだ」  医師は呆れながらも、しばらく様子を見るようにと、男をなだめた。
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