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それからも男の悪癖は治まることなく、尚も彼女は涙し続けた。
「ん?」
ある日、男は彼女を見て思う。近頃、なんだか色っぽくなったな、と。
男の浮気が発覚するたび、嫉妬したり激昂したりを繰り返す。自分がもっと魅力的な女になれば、男が他の女に目移りせずに済む。そう思い、美に磨きをかけているのだろうと高をくくっていたが、どうもそういうわけではなさそうだ。メイクを変えたり服装の趣味を変えたりといった程度の話じゃない。妖艶なまでに色気を放つようになっていた。
彼女の中で何か変化が起こったのかと気に病んだ男は、再び医師のもとを訪ねた。
「それはいけませんなぁ」
「はぁ……」
「心の中に咲いた花が、彼女に華をもたらせているのです」
「美しくなることがいけないと?」男は理解に苦しんでいる。
「悩みのタネから花を咲かせるには、涙という水が必要だったように、心の花を華に昇華させるためにも、きっかけが必要なのです」
男はすべてを察知した。
「そのとおり。他の男への恋心ですよ」
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