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3つの星座
——星と星の結びつきは人と人の結びつき。
私がここのプラネタリウムで働き始めた時に、先輩が言っていた言葉。
始めは分からなかったその意味。
でも、今なら分かる気がする。
私もこの場所で色々な人に出逢ってきたから。
それは、この見上げた星座の様に様々なストーリーを持っていて。人と人を結び付ける。
ここは不思議な結びつきの場所。
☆☆
「これ下さい」
40代ぐらいの男性が、3つの星座ストラップをレジに出した。星型の石が3つ連なり、星座の名前プレートが一緒にくっ付いたシンプルなストラップ。
おとめ座、てんびん座、さそり座の3つ。
「このストラップ、今大人気ですよ。これを持ってプラネタリウムの星座を見上げると、願いが叶うらしいです。噂ですけどね」
「願いが?」
「はい」
「そっか……ありがとう」
彼は消えそうな笑顔を見せると、それを大事そうに胸元に抱えて去って行った。
私は彼を知っている。何回も来た事があるからだ。でも、今日は一人。半年ぐらい前には、中学生の娘さんと奥さんの3人で来ていたはず。
2人はどうしたのだろうか。
彼の事が気になるまま、プラネタリウムの上映の準備を進めていた。
今日は春の星座の上映。
準備が終わると入り口からお客様が入って来た。その中に彼は居たが、あの2人はいない。
気になるまま、私はプラネタリウムの外へと出て行った。
☆☆
裕二は星を見上げながら、2人の事を思い出す。
娘の小夏は半年前に自殺をした。いじめを苦に学校の屋上から飛び降りたのだ。
気付いてあげれなかったのが悔しい。いいや、仕事ばかりで娘の事なんて全然見ていなかったんだ。見ようとしなかった。それなのに妻の広美を責めてしまった……最低な父親だ。
出て行った妻はまだ帰って来ない。
2人に謝りたい。
俺は3つのストラップを握りながら、願いを込めて星座を見上げた。
涙が溢れ出すと、懐かしい声が頭に響いて隣を振り向く。
「お母さん、あの星座は?」
「あれはあなたの星座、おとめ座よ」
左には小夏、その隣には広美が居る。
驚きのあまり、上半身を戻して2人を見つめた。間違いなく2人だ。
これは夢?
2人に会いたいという俺の願い?
「小夏?広美?どうして……」
「お父さん何変な顔してるの?」
「そうよ、あなたがプラネタリウム行こうって言ったんでしょう?」
「あ、そうだっけ?」
小夏が俺の肩をちょんと突いて、星座を見上げながら呟く。
「おとめ座の左下にはお母さんのてんびん座、その下にはお父さんのさそり座があるね!」
「あぁ、仲良しに並んでるな」
涙が止めどなく流れて、可愛い顔が揺らいで見えない。
「ごめんね、お父さん、お母さん」
「何言ってるんだ?謝るのは俺の方だ。小夏の苦しみに気付いてあげれなくてごめん!」
俺は、目の前の体を抱き締めて謝った。
「私はもう苦しくないから大丈夫だよ。だからもう苦しまないで。お母さんと仲良くね!きっとお母さんもお父さんを待ってるよ。3つの星座は仲良しだから大丈夫!」
小夏も広美も優しく微笑みながら、見上げた星たちの中へと吸い込まれて溶けた。
「ありがとう、小夏……」
プラネタリウムが明るくなり星座が消えると、俺は急いで出口へと向かいスマホを握る。
妻の連絡先を探していると、背後に視線を感じて振り返る。
「あなた」
「広美!」
「ごめんなさい」
「俺の方こそごめん!」
俺はまた2枚のチケットを買った。
2人で星座を見上げよう。
可愛い小夏はもう居ない。
現実を受け止めるには、きっと時間がかかるだろう。でも大丈夫だ。
2人で仲良く手を取り合いながら、支え合いながら生きて行こう。
〝3つの星座は仲良く並んでるよ、この先もずっと永遠に——☆〟
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