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「  ちょうど一年前の今の頃です。  その人は、この店にやってきて、店が閉まるまであなたのその席で海を眺めてました。  時折り、アメリカンを注文してくれて、席へ運んだ私を捕まえて思い出話をしたのです。  ええ、…そうですね、いろんな話をしてくれましたが、あなたの話しが一番多かったと思います。  ………  いや、たぶん、私がこうして覚えているのは、ただ多かっただけではないのだと思うのです。  あなたを語るその人の目が… 」 「  ここには海を眺める人が多く来ますが、誰かを語る人は多くはありません。  例えその誰かを語る人がいたとしてもその多くは、海を眺める目と同じ目で誰かを話すのですが、その人は…  その人が、あなたを語るとき、まったくそこだけ切り離されたように別の景色を見ているようでした。  海でもなく、私でもなく、どこか遠い、けれどおそらくそこは、寂しい場所なんかでは無かったのです。そんなものを見る目では無かった。  楽しいだけではない、歓喜も、哀切も、曖昧な執着も、そう…… 生きていることのすべてが詰まった景色を、思い出していたのではないかと思うのです。  一つ一つの言葉に熱量がありました。  深い熱で彩られた宝石のようでした。 」  向かいの席に座った店主は、きっと多くの人がそうしたように視線を海に流して話してくれた。友人がそうだったように、店主の瞳にもまた奥深くで灯る明かりがあるように見えた。  友人が、この人に熱を渡したのだろうか。  では、友人に明かりを灯したのは?
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