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「あの人があまりにあなたを生き生きと語るので、いつしか私もあなたの友人になったような気分だったのです。
私はてっきり、あの人はあなたのところへ戻るのかと思っていました。
だから、あの人の報せを聞いたとき、鈍器で頭を殴られたような気分でした。
けれど同時に、すとんと肚に落ちてしまったのです。
きっと、あの人は私にあなたのことを一つ一つ話すことで、一つ一つ、握りしめていた手綱を手放していったのでしょう。
あなたのことを話し終えた最後の日、あの人はとてもすっきりとした顔をしていました」
手を付けていなかったお冷の氷が、カランと音を立てて溶けた。
不思議なことに、友人のことを語る店主の声は段々と輪郭の縁がハッキリとしてくるようだった。今はもう形のない友人が境界の曖昧な店主を形付けるような、倒錯した光景を私は見ている。
「あなたに伝えなければと思いました。あの人がどんな語りであなたを私に語ったのか。
そうして、同時に、私はあの人の見ていたものを見たかったのです。
…… 万華鏡のような、それはきっと代わる代わる色を変える光で、そのとき、あなたたちにしか見えなかった景色なのでしょう」
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