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鈍行列車の車窓から見える風景は、屋根の密集がある駅付近を通り過ぎると長閑な山間の田んぼを広げるというパターンを繰り返している。
水平線はいまだ遠く、たまに陽光を跳ね返したきらめきに気づく程度だ。
列車はあまりに静かに滑らかに進む。ともすれば車窓を過ぎる景色はスクリーンに映されたどこかの風景画ではないかと思うほどだ。
子どもの頃に聞こえた枕木の音は、いったいいつから聞こえなくなってしまったのだろう。
車窓は透明に熱線を遮り、差し込むの光の強さと快適な室温の違和感に辛うじて気付く。
仕事は、日中帯ずっとオフィスの中で一日中ブラインドが日差しを遮り、私が知っている外気は早朝と真夜中の気配だけだ。
すこしずつ、静かに感覚を遮られている。
自分がどこにいて太陽がどこにあるのかも、いつの間にか日常から剥ぎ取られていっていたのかもしれない。
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