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これまでずっと、おれは希子のことを甘やかしてきた。
希子に呼ばれれば必ず会いに行ったし、連絡を無視したこともなかった。
希子が誰と一緒にいたって、責めたり咎めたりしなかった。
希子がくれる「好き」の言葉が嘘でも。自分が希子にとっては都合のいい男でしかなかったとしても、必要とされているあいだは彼女のそばにいたかった。
希子のことが好きだったから。
だけど昨夜のおれは、他の男とキスをしていた1時間後に希子がかけてきた電話に出なかった。
『ユキちゃん、今どこにいるの? 会いに来てよ』
数十分置きに入ってくる希子からの着信とメッセージ。鳴り止まない着信音を、おれは明け方まで無視し続けた。
『必要なときは好きなだけそばにいる』という約束で希子と繋がっているだけのおれは、彼女の恋人でもなんでもない。
何年も前の約束に縛られているおれの心は、そろそろ限界だった。
だってどれだけそばにいても、おれは希子の唯一にはなれない。
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