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「ユキちゃん、ほんとはずっとそう思ってたの?」
「え?」
「だからいつも、あたしから聞かないと『好き』って言ってくれなかったんだね」
いつだって泣きたい気持ちでいたのはおれなのに。希子のほうが泣きそうな声を出すから、わけがわからない。
「わかってたよ。ユキちゃんは優しいから、あたしのことを可哀想がってるだけだって。あたしのことなんて本気で『好き』なんかじゃないって。やっぱり、うそつきはユキちゃんじゃん」
おれのことを押しのけた希子が、儚く笑って走り去って行く。
その背中が高2の冬に窓枠に腰掛けていた希子の後ろ姿と重なって、背筋が凍り付いた。
少しずつ遠くなっていく希子の背中を見つめながら、間違えたと思った。
おれの役割は『必要なときに好きなだけそばにいること』で、嫉妬心を剥き出しにすることでも、希子に本音を曝け出すことでもなかったのに。
慌てて追いかけようとしたときには、希子の姿が完全に視界から消えていた。
電話をかけても繋がらなくて、今さらになってひどく焦る。
瞼の裏に思い浮かぶ風景は、寒くて冷たい冬の教室。
高校の制服を着た希子が、冷たい雪の降る窓の向こうへと飛び越えてしまう気がして。
おれは大学の校舎の階段を夢中で駆け上がった。
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