それが嘘まみれの愛でも

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 最上階から隈なく探し回って3階の空き講義室のドアを押し開けたとき、窓際に黒い人影が見えた。  それがすぐに希子だと気が付いたおれは、彼女のそばにある窓が大きく開け放たれていることに動揺してしまった。 「何してるの? 危ないよ」  おれの声に反応した希子が、ゆっくりと振り返る。 「平気だよ。あたしはただ、外の空気を吸ってるだけ」 「でも……」  たった一人で窓のそばに立つ希子の姿が、高校2年生の彼女に重なる。 「ユキちゃんのせいだよ」  講義室に足を踏み入れるべきかどうか迷っていると、希子が笑った。 「あたしが窓枠を乗り越えても気にする人なんていないって、ずっとそう思ってたはずなのに……。ユキちゃんのこと考えると、乗り越えるのが怖くなる」  希子はそう言ったけれど、窓枠にかかっている彼女の手がおれを不安にさせた。 「だったら、こっちに来てよ」  真っ直ぐに片手を伸ばすと、希子がおれの目をじっと見つめる。 「これからもユキちゃんがあたしだけのそばにいるって約束してくれるなら、そっち行く」  震える手で窓枠を握りしめながら、おれが離れられないような言葉を突きつけてくる希子はずるい。しかもそれを了承させようとしてくるなんて、わがまますぎる。  おれが希子だけのそばにいたからって、希子がおれだけのそばにいてくれるわけじゃないくせに。  それでも、希子に求められれば両腕を広げてしまう自分がつくづく嫌になる。
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