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「平気だよ。もしあたしがこのままここから落ちて死んじゃったとしても、誰も気にしない」
「そんなことないよ。家族とか友達とか彼氏、は……?」
確か、今は先輩と付き合ってるって噂だっけ。考えながら訊ねると、希子がふっと息を漏らした。
「残念ながら、今のあたしはその全部を持ってないんだよね」
希子が遠くを見つめて儚く笑う。その姿が淋しそうに見えたおれは、その瞬間から彼女の罠に落ちていたのかもしれない。
「だったら、おれが気にするよ。更科さんがもしもそこから落ちて死んでしまったら、おれは悲しい。更科さんを助けられなかったことを、一生後悔すると思う」
気付けば、彼女に向かって必死にそう言っていた。
「橋元くん、優しいね。みんなね、最初はあたしに優しいんだよ。家族も友達も彼氏も……。だけど、みんなすぐに離れていっちゃう。あたしが死ぬほど淋しいときには、誰もそばにいてくれない。だから────」
「だったらおれがそばにいようか?」
その言葉がどこまで本気だったのか。それは、自分でもよくわからない。
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