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「橋元くん、本気で言ってる? あたしが死にたいほど淋しいときはそばにいて、淋しくなくなるまで抱きしめてくれる? もし橋元くんが約束してくれるなら、ここから落ちるの、やめる」
希子が試すようにそう言ったとき、おれは彼女が本気で死ぬつもりなんかないことに気が付いていた。
窓枠をつかむ彼女の手が、おれが立つ位置からでもわかるくらいにはっきりと震えていたからだ。
希子はたぶん、おれを試していただけだ。おれが希子の嘘をどこまで受容できるかを。それがわかっていて、おれは彼女のことを放っておけなかった。
今おれが手を差し伸べなければ、希子はそう遠くない未来で窓枠をつかむ手を本当に離してしまうような気がしたから。
「いいよ、約束する。更科さんがおれを必要なときは、好きなだけそばにいてあげる」
真っ直ぐに片手を差し伸べると、希子が迷うようにおれを見つめた。
窓の向こうでは、降り始めた雪が少しずつ強くなり始めている。
白くて冷たい窓の向こうに希子が誘い込まれてしまう前にこちら側に引き戻さなければ。そう思って、少し焦った。
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