それが嘘まみれの愛でも

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「おいで」  両腕を開いて呼ぶと、希子が小さく身体を震わせながら窓の外に投げ出していた足を教室の床に下ろした。  おれに向かって駆けてきた希子が、腕の中に飛び込んでくる。ほっとすると同時に、抱き留めた希子の身体の冷たさにぎょっとした。 「冷た……どれだけの時間あそこに座ってたの?」 「少しだよ」  そんなはずはない。希子の冷えた身体を抱きしめると、彼女がおれの胸に頬を擦り寄せながらクスクスと笑った。 「橋元くん、名前なんだっけ?」 「雪春(ゆきはる)」 「ゆきって、今も降ってるあの雪?」 「そうだけど」  いつまでも頬を擦り寄せてくる希子の行動に戸惑っていると、彼女が突然おれの腰に腕を回して抱きついてきた。 「そっか。雪なのに、こんなあったかいんだね」 「いや、ただの名前だし……」 「そうか」  おれの体温を奪って少しずつ身体が温まり始めた希子からは、窓枠に座っていたときに感じた危うさが消えていた。 「橋元くんのこと、ユキちゃんて呼んでいい?」 「いいよ」  おれを見上げて無邪気に笑う希子は、どこにでもいるような普通の高校生の女の子で。  だからおれは、勘違いしていた。抱きしめればすぐ笑顔になるような希子の淋しさを埋めるのなんて簡単だ、って。  彼女の淋しさが、底なし沼みたいに暗くて深いことにも気付かずに。
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