それが嘘まみれの愛でも

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◇ 「橋元くん、ちょっとだけいいかな?」  大学の講義が終わってひとりで歩いていると、同じゼミの青山さんに声をかけられた。  ゼミ以外にもいくつか同じ講義を取っていてたまに話すけれど、彼女とは特別親しいわけじゃない。 「うん、いいよ」  不思議に思いながら頷くと、青山さんがうつむきながらカバンからスマホを取り出した。 「あの、もしよかったら連絡先を交換してもらえないかな、って。ほら、講義とか結構被ってるし、わからない課題があったときに教えてもらいたいから」 「あぁ、うん。いいよ」 「よかった、ありがとう」  スマホを握りしめて嬉しそうに頬を染めている青山さんの顔を見て、なんとなく察してしまった。  青山さんはどの講義でもだいたい女友達と一緒に席に座っているから、別におれと連絡先を交換しなくたって課題には困らないはずだ。  おれの自惚れじゃなければ、これは彼女からの好意のサインなのだろう。    高校時代はしょっちゅう希子に絡まれているおれにわざわざ声をかけてくる女子なんていなかったし、大学に入ってからも希子以外の女の子との関わりはほぼなかった。  それなのに、物好きだな。  目の前で恥ずかしそうにしている青山さんを見下ろしながら、ひさしぶりの誰かからの好意に少しくすぐったくなる。
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