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時代は変わる
有島社長は唐突にとんでもない話を始めようとしていた。この社長、従業員を大切にする。そのためには周りが何と言おうと儲けることは善とする。しかも久保の提案では、出前事業を拡張したいと言っていた・・それなのにどうして⁉ 店をタタムなんて言い出したのだろう? 記者の間宮は驚いた。
間宮はある雑誌社の編集兼、記者と云う立場だ。これまでもいろいろな成功者を取材してきたが、その殆どの経営者は、更に店を増やすことに話題が終始した。
だが、有島社長は違った。儲かっているM&Mを廃業する計画を、今取材を受けている記者にわざわざ話し始めたのだ。
「今のコロナ禍の下で緊急事態宣言だの蔓延防止措置だの、いずれにしてもこのウイルスは口を開けたら感染すると言うんだろ⁉ だったら早い話、お客さんに集まっていただいて食事を提供するなんて、そんな事業そのものが成り立たないってことなんだろう。」
「でも社長のお店は全店とも儲かっているんでは?」
「それも今だけだろ⁉ いずれは少しづつ、そして更に少しづつお客さんは来なくなるよ。そんな気がするんだ。」
「でも、先ほど久保さんが出前の計画書を社長に渡していましたよね? だから継続してあげないと久保さんの努力もむだになり、久保さん・・気の毒なことに⁉」
「久保君の出前プランのことなら心配ないよ、最初は時短営業後の売り上対策から始まった出前プランだったが、この出前って地域のラーメン屋なら昔からやっていた極当たり前の事なんだ。だが大きく異なる点が店舗レスで24時間体制である所なんだ。
これを提案してくれたのが彼なんだから大丈夫! いまやランチの配達と言えば○○イートなんて配達専門機関が活躍しているが、ウチは違うんだ!」
なるほど○○イートっていうと自転車やバイクを使って、登録店から依頼が有れば、その引き取りとユーザーへの配達を兼ねて走っている、アレだよね。
だが、それと昔からのラーメン店の出前とどこが違うんだろうか?・・ん~店舗レスとも言ってたな。
「昔のラーメン屋さんのように作ってから配達していたんでは、麺が伸びちゃうだろ・・そこが違うんだよ。
ウチのはね出前に走った職人がお客様宅の玄関で有ることをチョコっとすることで熱々の出来立てラーメンを食してもらえるんだ、ラーメンはここが命なんだよ。」
「そんなので採算が取れるんですかね?」
「それを試算したのがこの久保君の提案書なんだよ」
「成る程・・でそれって?・・」
「間宮さん・・あんただって出版前のネタは公表しないだろ。それと一緒だ! これだけは幾らあんたと私との間と言えども無理!・・それよりもう一つあるんだ。それも新事業だよ。」
有島は現時点で雇っている従業員の約20名では賄いきれないほどの更なる事業を考えていた。
「新事業って、飲食業では無いんですよね・・きっと⁉」
「やっぱり間宮君は勘が良いね・・そうなんだ食は食でも一次産業って言うか農業がやりたくてね。出来りゃ今後も戦力外宣告を受けた元プロ野球選手にも是非手伝ってもらうつもりなんだ。」
「へー社長ってそれじゃ戦力外選手の親分みたいですね⁉」
「そのように評価してもらえると嬉しいね、これからも恩返ししたいんだよ。当時の監督にね、それと戦力外宣告だっからって怖がらずにのびのびプレーしてもらいたいんだよ。少年時代からもってことだよ。
一度咲いた花は枯れたとしても、種は残すんだよ。だからいずれどこかで再び咲かせてもらわないとね。」
―完―
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