屋台での出会い

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屋台での出会い

 中洲の屋台で博多ラーメンをすすり、ビールを飲むー。普段味わえない解放感からか、芽衣はいつもより勢いよくビールを飲んでいた。  「今日は思い切り飲んでやる!」心の中でそう叫ぶと、2杯目のビールも勢いよく飲み干した。  「お姉さん、お一人かい?」すると、ラーメンを作ってくれた店主らしき人物に話しかけられた。  「そうなんです。訳あってひとり旅になってしまいましてね…。」  「そりゃー可哀想に。失恋かい?」  「そんなんじゃないです!!仕事関係の付き人で博多に来る予定だったんですけど、今朝急に一人で行ってこいと言われまして…。」  「なんじゃそりゃ!ひどい話だね。こんなべっぴんさんひとりで飲みに来るなんで珍しいからね、おい!そこのお兄さん、一人でちびちびやってないで、このお姉さんと一緒に飲みなよ!」店主らしき人が声をかけたのは、芽衣より少し年上風の、いかにも仕事ができそうな銀縁メガネをかけた、スマートな男性だった。  「え…。まあ、お邪魔でなければ。」銀縁メガネの男性が控えめに答えた。  「は、はじめまして。今日東京から来たんですけど、あまり博多は詳しくなくて…でも、昔から屋台でラーメン食べて飲みたかったんです!」芽衣は女性らしくないことは言いたくなかったが、もうひとりでラーメンを勢いよくすすり、ビールをがぶ飲みする姿を見られているので隠しようがなかった。  「いいですね、女性らしくなくて、僕あんまり女性らしさが溢れてる人が苦手なんです。僕の名前は毅(つよし)と言います。よろしく。」  「私、芽衣って言います。よかったです引かれなくて…。」  「芽衣さん、素敵な名前ですね。僕はこういう屋台で飲み食いするのが好きで、週に一度は来るんです。なんか、お洒落なお店はどうも落ち着かなくて。」  「わかりますわかります!私もバーみたいなところより、大衆酒場的な方が好きです。」  ふたりはすぐに意気投合した。芽衣から見たら一見きれい好きで、エリートのような見た目をしている毅が、実は屋台で飲むのが好きというギャップにすぐに惹かれていった。  「芽衣さん、よろしければ2軒目行きますか?」毅はとても気遣いが上手な男だと思った。芽衣は今まで召し使いとして働く経験が長いせいか、気遣いをする立場であれど、あまり気遣いされた経験がない。この時の毅のように、優しく気遣うように2軒目に誘われたら、断る理由が見当たらない。  「よろこんで。」  ふたりは屋台の通りを抜けると、完全個室の日本料亭「かなた」に入った。毅の行きつけのお店らしく、入り口を入るとすぐに個室に通してくれた。  「さ、これで周りも静かですし、ゆっくり飲めますね。屋台の騒がしい感じも好きですが、女性とふたりで飲むならこの方がいいかな。」  「こんな落ち着いた雰囲気のお店初めてです…。もしかして、高いお店じゃないですか?」  「気にしないで、好きなもの飲み食いしてください。僕が持ちますから。」  芽衣は夢心地だった。普段はめったに食べられない高級魚や、絶品なお肉を使った日本料理をつまみに、日本酒を嗜んだ。しかも、目の前には年上イケメンが包み込むような優しさで話を聞いてくれる。これほど優美な時間はないと思った。  2時間ほどお店に滞在したふたりは、毅が会計を済ませた後、外に出た。酔って火照った体には夏の終わりの夜風がとても気持ちよく感じられた。  ふたり並んでゆっくりと歩き出してしばらくすると、毅が口を開いた。    「芽衣さん、僕ね、もっと芽衣さんと一緒にいたくなってしまいました…。よかったら今夜、一緒に過ごしませんか?」  「え…。」芽衣はいきなりの毅からの誘いに一瞬戸惑ったが、毅に完全に惚れ込んでいた芽衣に断る選択肢はなかった。  そのままふたりはラブホテル「クレオパトラ」へと入っていった。芽衣はいつ振りか思い出せないほど久しぶりのラブホテルに緊張していたが、毅に肩を抱き寄せられると、身を任せるようにして部屋に入った。  部屋に入ると同時に、ふたりは唇を交わした。今まで我慢していた欲望が弾け飛ぶように、激しい口づけだった。芽衣はそのままベッドに押し倒されると、着衣を脱がされ、首筋にキスをされると、しびれるような快感に身を委ねた。そしてその快感に溺れるように、途中から記憶が薄れていった。久々に「女」を取り戻した芽衣は、行為が終わるとそのまま眠りに落ちた。
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