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然し、長く言い聞かされ信じる者が多いからこそ……森に訪れる者も多いのである。
「花よ蜜よ、華よ毒よ、黑の森よ、黑の魔女よ、どうか、どうか我の代わりに貴女様が呪を、我が憎む者に報復を!」
そして今日も、黑の森の入り口で吠え猛るかのように、唱えてはならない真言に等しき願いを唱えた者がいた。
「……なんて、叶うわけないか。大昔から伝わる御伽噺みたいな言い伝えだ…ああでも、本当に叶えばどれだけいいか」
そう呟いて離れようとする男は、風が無かったはずなのに急に森の内側に吹き込む様な風が男の足を引き留め振り向かせるには充分だった。
「呪は、貴方も負う。その覚悟と、差し出す対価を教えて下さいませ。」
不意に森から、返事が。
その声は幼くか弱く……同時に可憐で透き通った声だった。男はその声に惹かれ、何かに誘われるように森の入り口に跪き 頭を垂れる。
「貴女様が望むのなら、貴女の望む対価を全て……それで私めの願いを叶えてくださるのなら、仰せのままに」
そう急に恭しい態度になった男は姿の見えない者に対し従順な僕の様にも見える。
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