hana hiraku

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 季節はいつが好き?  春?   いっしょだ。私も好き。  草木が芽吹く時の、むくむくと内側からエネルギーが湧き上がる感じと、若い緑の色が好き。  あなたと並んで歩きながら、大きなケヤキの木を見上げる。  ケヤキもまだ、黄緑色の葉を芽吹いたばかり。  柔らかそうな無数の小さな葉は風に吹かれて、ふるふると揺れる。  おしゃべりなあなたなのに、ふと黙り込む時がある。  今も、お堀の柵に組んだ腕を載せて、黙って見ている。  風が渡った水面は、いくつもの波頭に陽の光を反射させて、ゆらゆらと揺れる。  あなたの今までの恋の話なんて、聞くんじゃなかった。  思い出の一から十まで、何が起こったかは覚えていない。  ずるいわね。  何が原因で別れたかだなんて、そんなことは忘れている。  想いの花は、ドライフラワーにはならないの。  いつまでも想いを馳せる度に、瑞々しい花びらをふわりとほどく。    そして私の中には、違う花が咲きはじめる。  真っ赤な芥子の花びらは、めらめらと燃える。  聞かなければ、こんな花を咲かすこともなかったのに。      
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