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「連撃――――」  ルプリの口から血の塊が飛び出したかと思うと彼女の腹には男の太刀が突き刺さり、背中まで貫通していた。 「お逃げ下さい! お嬢様あぁぁ」  ルプリはそう叫ぶと、太刀ごと男剣士を抱えこんだ。 「なっ!」  うめこうがもがこうが、ルプリの巨大な肉体は剣士をめり込ませていく。 「ルプリ!」  ルプリは私を産んで直ぐに他界したお母様の代わりだった、お父様の言い付けを破って怒られた時、初めて魔法が使えて誉められた時、いつも一緒にいてくれた。 「嫌だ、ルプリも一緒に、ルプリがいなきゃ私……」 「お嬢様……ルプリは、嬉しゅう……ございます」  大きな音を立ててルプリは剣士を抱えたまま倒れこみ、剣士を生き埋めにした。 「ルプリー!」  焼け焦げた芝に大量の血が流れる。次の瞬間、ルプリの巨体は弾け飛び、下から血にまみれた剣士が肩で息をしていた。 「ルプリ……」  ――――自分の中で何かが切れた、そんな音がした―――― 「きっ、貴いぃ様あぁらあぁぁー!!」  烈火の如く怒りがこみ上げる。停戦なんてもうどうでもいい、目の前でルプリや沢山のスライムが殺られたのだ。 「おやおや、ブートフロッグを殺られご立腹のようですね、たかだか低モンスターじゃないですか」 「低モンスターでもブートフロッグでもない! ルプリだ!」 「ほほほ、面白い、ではついでにもうひとつ、あなた方の乗って来られた飛行船なのですが、全滅させて頂きました」 「なっ」  体の中から力が沸き起こる、奥歯を噛みしめ、握る拳が小刻みに震える。 「よく聞け人間共、我は暗黒魔王が令嬢フランデル。我が力を持ち、人間ども《貴様ら》を片っ端からぶっ殺してやろう!」  腕を上げると同時に炎の塊を無数に現す、対して魔法使いは氷の刃を周りに張り巡らせた。 「悪は魔族、魔族は駆除するもの、なぜそれが分からないのですかね?」 「ぅるさい死ね!」  涙が頬を伝う、ありったけの力だ、炎の塊は一斉に魔法使いに向かい飛んでいく。 「はぁ、アイスダスト……」  気だるそうに放った氷の刃と何度もぶつかり合う音が聞こえる、水蒸気がもくもくと上がる。  打ち続けると体の体力が無くなっていくのがわかる、しばらくして撃ち方を止めた。これだけ打ち込んだのだ、柔な人間では生きてはいないだろう。  風が煙を吹き消した瞬間、氷の刃が一本現れたと思うと私の肩へ刺さる、避けきれなかった。 「痛っ」 「魔族姫、ここはガデムブルグ大地ですよ、お忘れですか?」  キズひとつ追っていない魔法使いがゆっくりと私に向かい歩いてくる。  『停戦中とはいえ敵地』お父様の言葉が頭を過る。油断した、魔界ならばこんな奴ら一捻りに潰せるものを……  既に魔法を放つ体力は残っていない、肩からは血が流れる、このまま殺られるのかと思うと足が震える。 「魔族は悪、悪は排除」  魔法使いの杖が顔の目の前に突き出されると、私の回りを取り囲むように氷の刃が現れる。ギュッと目を瞑り顔をしかめる。 「おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのですか」 「に、人間よ、最後に教えてくれ、なぜ私達魔族を悪と言い、意味嫌う……」 「それは……人間、ではないからですよ……ハッ!」 「嫌っ!」  一斉に私の体に氷が突き刺さる、背中、脇腹、腕、足。傷口は熱を持ったように痛い、次第に意識が遠退くのが分かる。 「ぐ……はっ」  同時に膝から倒れこむ、喉の奥が詰まったような感じがする、涙と共に嘔吐すると、大量の血が濃紫のドレスを汚した。  ごめんルプリ、お父様……
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