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「お前ら何をやっている!」  内臓が出てしまうのかと思うほど、体の中から出る血が止まらない、薄れる意識の中で誰かの荒らげる声が聞こえる。 「シ、シンドラドか……でも……」  シンドラド? 誰なのだろう。お父様の周りにいる魔族にそんな名前は聞いた事がない、だとすればどうせ人族に違いない―――― 「……い、はや……」  ああ、もう耳も聞こえなくなってきた―――― 「……た……」  だんだんと体の痛みが消えていく、これが死ぬ感覚なのね、  魔族と人族……なぜこんなに争うのだろう?  ま……いっか…… 「この世からいなくなる私には、関係ない」 「良かった、間に合った!」  ――――え?  声が聞こえる、それもはっきりと。驚き見開いた目は鮮明に景色を映す。  何故だ? これが死んだ後の世界なのか? 私は顔を両手で触った。張りのある頬、二つの目、一つの鼻、口。上半身を起こし、朱赤の髪の毛と、こめかみに二本の角を確認する、濃紫のドレスは汚れ一つ無いどころか、氷の刃で受けた破れも無くなっていた。  幽体離脱かと、自分の寝ていた場所を振り返って見るが、誰も寝ていない。 「良かった、ヒールが効いたようね」  女性の声、直ぐ横にいた聖職者の格好をした女性と目が合った。銀の杖を持ち、心配そうな青い目だった。  人間か! 私は条件反射のように体を反らし後退りする。 「魔族だったからさ、逆効果かもしれないかと思ったけど良かった」  男の声、魔法使いや剣士とは違う声、それにヒール? いったいどういうことだ、私は死んでいないのか? 頭の中が混乱する、赤いマントを翻した男が聖職者の後ろに立っていた。 「魔族姫、俺は勇者シンドラド。停戦中にも関わらず、パーティの重なる無礼をお許し下さい」  勇者と名乗る男は……  名乗る、男は…… 「姫、さあお手を」  革の手袋を外した勇者の手が伸びて私の前に出された。目の輝きが純粋な心の持ち主だと言っていた。なぜか心臓がドクンと高鳴った。勇者とは何者だ、こんなことは初めてだった。 「ひ、人族にしては礼儀のなっている者だな」  なぜだか顔が暑い、恥ずかしくて目を反らした。唾を飲み込み、手を伸ばした瞬間、突風が吹く。凄い突風だ、周りの木々が音を立てて飛んでいく、伸ばした手は顔を覆った。  次に目を開くと辺りは真っ暗、大きな手が勇者と私の間を裂くように下ろされていた。黒光りする鎧、漆黒のマントがふわりと浮いている。 「お父様!」 「大丈夫か、フランデル」  勇者と聖職者は突然の風圧で飛ばされている、 「停戦が決裂した直後から報復とは、貴様ら人間には失望したわ! 皆殺しにしてやろう!」  お父様は右手に巨大な火の塊を作り出し、勇者と聖職者に向かい振りかぶった。 「お父様! 待って、この人達は――――」 「岩炎魔法、メテオライト」  私の声は聞こえていない、振り下ろした腕から火の塊が勇者めがけて飛んでいく、彼は慌てて防御魔法を放とうと構えるが、お父様のメテオライトのほうが早い、  間に合わない―――― 「止めてーー!」  勇者と聖職者の目が見開いた、私の叫んだ声は、ガデムブルグの大地に響いたのだろうか……  移動魔法、ルドワープ――――  次に目を開いた時には、魔界だった。
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