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「お父様!」  転移魔法により、一瞬にして私は魔界の城まで転移していた。 「フランデル怪我は無いか?」 「怪我どころか、あの二人は私を助けてくれたのよ!」 「助ける? 人間がか?」  眉を潜めるお父様 「そうです、あの二人は瀕死になった私に回復魔法をかけてくださったのよ」 「停戦協定を破綻させると言ったのは人間側なのだぞ、それに瀕死とはどういうことだ」  腰を折り私の顔を覗き込むお父様の威圧感に、息が詰まる。 「そ、それは……」 「ルプリやメイド、執事まで全滅させておいて、人間め……許せんぞ!」  再度怒りを露にしたお父様はマントを翻し、遅れて転移してきた四天王を引き連れ、玉座の間へ向かった。 「お父様……」 「こいつが油断していたから、人間に殺されかけたんだ!」  頭の後ろから声がした、どこかで聞き覚えのある声、後頭部から肩へと何かが動く感触がする。  反射的に手で払いのけた。地面に落ちた親指ほどのそれは、大きく息を吸い込んだと思うと、ムクムクと膨れあがり、大きくなっていく。 「スライム! あの時の」 「この城にスライムだと……」  振り返るお父様、元の大きさまで戻ると、灰色のスライムはお父様に一礼すると、私を見上げた。 「安心しろ、俺がボディーガードをしてやるよ」 「ありが……って、あんたスライムじゃん!」  灰色のスライムは「だからどうした」と、言わんばかりに私を睨む。 「そこのスライム……」 「ん?」  お父様に向かってこの態度をとるモンスターは初めてだった、私ですら敬語を使うのに…… 「最弱の貴様がボディーガードは無理だ、コイツらの一人を付ける」  お父様の後ろにいる四天王らを指さしていう 「貴様は自分の持ち場へ帰れ」 「最弱じゃない! 取り消せ!」  何を思ったのかスライムは助走をつけて魔族の王、に飛びかかった、大柄な体にスライムはサッカーボールくらいにしか見えない。  スライムはハエを叩くように一瞬で払いのけられた。 「ぐぅ」  まあ、こうなるだろう…… 「最弱じゃない! 取り消せ、わあぁぁあ」  再度魔王に突っ込むスライム、確か色がないから、色無し無しちゃんとか呼ばれていた、無しちゃんは何度もお父様に叩き落とされ、しまいにはその頭をバスケットボールを片手に持つように捕まれた。 「貴様いい加減にしろ、殺されたいのか?」 「うるさーい、俺は最弱なんかじゃないんだ」 「ちっ」  お父様の舌打ちが聞こえる、それから当分の間、壁当てのように無しちゃんは何度も壁に叩き付けられた。 「ふん、しつこいスライムだ、ワシはこんなところで遊んでいる暇は無いのだ」  そういうとお父様はずかずかと部屋を後にした、 「ぐ……うぅ……」 「ったく、なんなのよあんた」  私は動けなくなるまで壁にぶつけられた『無しちゃん』を見捨てることができずに膝の上に乗せていた。 「俺……弱くない……」  瞬きをすればこぼれる限界まで、目に大粒の涙を浮かべている、体はボロボロ、形はぺちゃんこのまま、戻っていない。 「ここまでやられておいて、よくまだそんなこと言えるわね」 「でも……魔王は行ったぞ」 「お父様は呆れただけよ」 「俺を殺せた、けど殺さなかった。俺が強いからだ」  無しちゃんの口角が上がる「へへ」と笑い、目を閉じぐうぐうと眠り始めた。 「俺が守ってやるから……安心しろよ」  膝の上で寝言を言っている、若干の笑いが込み上げてきた、そんなにボディーガードがしたいのだろうか、とにかくこのままにしておくわけにもいかず、そのまま私の部屋に連れて行く。ルプリも執事もいなくなった今、この子だけが話し相手と考えれば悪くはない。 「ったく、世話の焼けるスライムね」
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