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◆◇  部屋の窓から見える景色は綺麗なものではなかった。もうあの人のいる人間界へ行くことはないのだろうか、あの日から私は勇者と呼ばれていた人のことが頭から離れなかった。 「ねぇ、ル……」  言いかけた、あの事件から二ヶ月が経った今でもルプリを呼ぼうとしてしまうのはきっと癖だ。彼女に聞けば何でも教えてくれた。彼女なら相談できただろう、だがもうそれもできない。私のモヤモヤは心の中で膨らんでいくばかりだ。これが恋なのかと思うと胸の奥がずしんと重く感じ、ため息をつかなければ、冷静を保っていられそうになかった。 「何だお前、恋した少女みたいなため息して」 「は、はぁ!? だ、だ誰がよ」  一気に顔が熱くなる、突然の図星に動揺を隠せていない証拠だ、 「お前まさかあの勇者とかいう奴に恋したんじゃないだろうな」 「ち、違うわよ失礼な」 「本当か? 本当ならいいんだけどよ」 「本当よ、私は魔王令嬢なの。敵の人間になんかに興味が湧くわけないでしょ」 「……そうだよな、もしそれが本当なら、魔界は大変なことになるしな」 「そ、そうよ」  好きな相手が敵対する人間、それが勇者ならばいずれ対決しなければならない存在だろう、魔界の王であるお父様の立場もある。深呼吸をして、この事は考えないようにした。  窓からは城門が下に見える、そこを通るモンスターの出入りが日に日に増している。 「今日も多いわね、ナーシ。ほら、あんなに新しいモンスター」 「ああ?」  すっかりとなついたスライムは私の肩に飛び乗る。色の無いスライム、周りからは色無し無しちゃんと呼ばれていたことから、ナーシと呼ぶことにした。 「まあな、人間と全面戦争だもん、魔王も忙しそうだしな」 「魔王って……お父様のことをそう呼び捨てで呼ぶのはあなただけよ、少しは立場をわきまえなさい」 「はっ? 俺の勝手だろ」 「ちょ、あっ」  ナーシは肩から飛び降りると、ピョンピョン跳ねながらドアに向かった。 「よーし、そろそろお前にも稽古をつけてやるぞ」 「稽古ぉ?」 「そうだ、お前は弱っちいからな、いざというときに身を守れなきゃな、これもボディーガードの仕事だ」  最弱の癖に態度だけは大きい、それにナーシは私の力を知らないのだろうか、最弱のスライムなんかに稽古をつけられるなんて、どれだけ甘く見られているのだ。 「あのねナーシ、私はあなたよりずっとずーっと、強いのよ」  腰に手を当て小さい子供に言い聞かせるように、指をさすと、ナーシはニヤリと笑い目を細めた。 「ほーう、なら俺を倒してみろよ」 「生意気な子ね、分かったわ、相手してあげようじゃない」  軽く痛めつければ、この子も自分の弱さが分かるでしょう、殺しちゃわないように手加減、手加減 「行くわよ、覚悟はいーい? ボールドファイアっ」
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