1

9/16
前へ
/16ページ
次へ
 「なら……ば」と、ドマスの声と同時にサーベルがナーシを貫通した。額から背中、先端は床に突き刺さり、ナーシは口を開けたまま、白目をむいていた。 「ナーシ!」  思わず声をあげてナーシに駆け寄る。所詮は最弱モンスター、このようにあっさりと殺られてしまうことは無理もないのだが、生意気だった事が余計に悲しみを大きく膨らませる。 「ナーシ、ちょっと、ナーシ」 「ふっ、スライム……ごときが……この城に」  ナーシに抱きつき頬を触る、サーベルを抜こうにも力をいくら入れても抜けない。 「ドマス! 早くサーベルを抜きなさい、そして貴様には刑罰を受けてもらう!」  僅かにナーシの体がピクリと動いた。まだ生きている、焦る気持ちが刃を握るように掴ませる、「痛っ」力を入れると赤い血がサーベルを伝った。  わずかでもナーシの息があるのならば応急班を呼び、ヒール魔法で回復させられるのだ。 「お嬢様、今、何と?」 「だから刑罰だと言っている、監禁か四天王の座を剥奪が妥当であろう! それより早くこれを抜きなさい!」  きつく刺さるサーベルはまるで地下一面に張り巡らされた木の根っこのように抜けない。 「監禁……剥奪」 「早く抜けと言っている! 更に刑罰を受けたいのか!」  「痛っ」勢いよく地面を離れたサーベルは私の頬を掠めた。赤い血が頬を伝う。 「ドマス、貴様は自分が何をしているのか分かっているのか?」 「分かって……ます、フランデール様、いや。フラン……デール」 「お前!」  ドマスはサーベルを一振して血を拭うと、甲冑の擦れ合う音を立てながら、座り込む私を見下ろすように近くまで来る。 「やはりな……これくらい……の攻撃、この前の人族界で……どなたか……と、お会いしまし……たか?」  暗い兜の中でドマスの目が見開き、吸い付けられるように動けない、まるで暗示にかけられているようだ。まるでこれは……  魔法――――  私は何かの術にかけられているのかと思い慌てて目を瞑る。 「な、何を急に」 「それは男性」 「は、はあ?」  畳み掛けるように質問をするドマス、目を硬く瞑り顔を伏せるが、甲冑の音で奴の顔が私の横にあるのには気がついている。 「その男性……は、とても、あなたに……とって好印象、つまり――――」 「そこでやめておけ、ドマス」  風が吹き抜けた――――  ドマスの言葉を遮るように言葉を被せた声はこの城では聞いたことが無い、だが、どこかで聞いたことのある声、忘れられない声、そう、いつも毎日思っていたその人の、声。 「まさか、ゆ、勇者?」  目を開くと目の前に赤いマントが翻る、ふわりとマントが落ちると、ドマスの顔の前に剣が突き付けられていた。 「お嬢様、お怪我はありませんか?」  その姿は紛れもなく勇者。人族界で助けて頂いたお方、そう、名前を確かシンドラド―――― 「お、おおお、お前」  突然の姿に落ち着いて喋れる筈がない、それにこんなボサボサの髪や汚れたドレス、腕や頬には血が流れている状態では見栄えが悪い。  慌てて血を拭い髪をとかし、ドレスの埃を払う、 「なんでこ、ここ、ここに」 「お嬢様の事が心配で、つい来てしまいました」  ニカッと、笑うシンドラド。 「わ、私の事が?」  頭の中を整理する前に剣が弾かれる音がする、 「ふっ……死に……たいか貴様……」  同時にドマスのサーベルが勇者の首もとに突き当てられている、 「やめろよ……元、王宮護衛隊長。剣豪ドマス・カータ」  この状況下でもシンドラドの声は震えていなかった。それどころか落ち着いているように聞こえる。 「なっ!」  驚いたのは私だけではなかった、兜の外からでもドマスの動揺は感じ取れた。 「お、王宮!?」  なぜ魔界のそれもお父様が認めた四天王の一人が人族だなんて、ドマスのサーベルが一瞬緩んだ隙に金属音が再度響く、弾かれたサーベルを合図に二人は間合いをとり、体勢を整える。 「貴様……なぜ」 「有名な話だ、王宮の剣豪が魔界の女性に恋をしたってのは」 「うるさい!!」  シンドラドの言葉を欠き消すようにドマスが踏み込む、振り下ろされるサーベルを紙一重のところでかわすと、次はお互いの立っていた場所が逆になった。 「魔族に恋した人族は、その力を失う……そしてその逆も然り……だが人が魔族になればその恋は永遠になる、魔族には寿命が無いからな、そして以前の力も元に戻るどころか更に倍増する」 「ベラベラと余計なことを……」  ドマスは深く腰を落とし、サーベルの先を頭上からシンドラドへ向ける。何か特別な構えといった感じだ。 「貴様に話すことはない死ね、シュトゥルムドラング」  物凄い速さで何が起こったのかも分からなかったが、爆発音と共に突風が吹き、部屋に雨が降り雷が鳴る。しばらくしてそれが止んだ頃、ようやくシンドラドとドマスが剣を交えているのがわかった。  「なぜ貴方のような方が魔族になった、その女性と平和に生きるすべを、なぜ探さなかった!」 「黙れ小僧に何がわかる!」 「分かるね、貴方は力が欲しかった、そうではないのですか! だから恋人をも殺めた。全ては王宮剣豪を維持する為、他の者にその座を渡さない為に!」 「うるさいと言っている、シュトゥルムウィンド!」  下段の構えをしたと思った瞬間、ドマスのサーベルから竜巻が起こり、それを剣で受けたシンドラド、やがて二人を暴風が包む。  レベルの高い戦いに、私は必死に自分の身を守ることしかできなかった――――
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加