僚友

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僚友

「今日は誘ってくれて、ありがとうございます。」 「こちらこそ。でも半分は野次馬根性よ。」 久しぶりに和田から連絡があり『フォアフロント企画』に呼ばれた未来は、麻里子(まりこ)からランチに誘われていた。 「前置きは無しね。びっくりしたわよ。こんなに驚いたことあったかなってぐらい。」 決算の打ち上げの席で、青島が未来(みき)と『おつき合いしている』と報告したことは聞いていた。 生真面目で決して噂好きとは言えない麻里子の驚きように、会社に行くのが少し怖くなる。 「聞いているかもしれないけど、社長が締めの挨拶で、私事でって話し出した時、結婚⁉︎と思ったのよ。みんな顔を見合わせて。」 麻里子の話を聞きたいような聞きたくないような、未来はそんなこそばゆい気持ちで相槌を打つ。 「特に気にすることはないと言われて、詳しくは聞いてないんです。でも社長相手に、みんな何も言えなかっただけなのかなって思ったんですけど。」 未来が思っていたことを口にすると、麻里子はそうそうと力を込めて頷いた。 「あれは作戦よね。最初で話すとそれだけになっちゃうもの。配慮だって言いそうだけど。」 麻里子も青島のことを分かっている。 未来は大きく頷いた。 「社長、質問があれば二つまで受け付ける、って言ったのよ。」 未来にとって、初めて聞く話だった。 「そうだったんですね。知らなかった。」 「ひとつだけ言っておくが退職とは一切関係ないから、根拠のない憶測は止めて欲しいって言ってね。」 そのことは、青島が一番気にしていたことかもしれない、と未来は思った。 「そう言われて、咄嗟に出てくる質問なんて、大体が決まってるじゃない?」 麻里子は、そう言って笑った。 「いつからですか?どっちからですか?で終わり。 社長の答えも、12月、俺、の二言で、来期もよろしく、でおしまい。」 その場面(シーン)がいとも簡単に想像出来てしまい、未来は当事者というのに笑ってしまった。 「どうにかして二次会に連れて行こうとしているメンバーもいたんだけどね。元々、参加しないことが多いでしょう。さっさとタクシーに乗って帰っちゃった。」 その後は私の所に来たんだと未来に言えるはずもなく、そこは笑ってごまかす。 「でもね、結局お似合いだって納得したの。みんな二人の仕事に対する姿勢も、人柄も、見て知ってるから。」 麻里子は優しく笑った。 「どちらかと言うと、不安な要素は社長にあるのよね。でも少ない言葉の中に、中西さんに対する真剣な気持ちが伝わってきて、大丈夫かなって思った。」 麻里子が未来を心配しているのだと分かり、未来はありがとうございます、と頭を下げた。
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