僚友

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「ほら。もう良い奥さんさながら。」 麻里子の言葉に、そんなことない、と未来は慌てて首を振る。 「そう言えば、春香(はるか)さん、そろそろ産休なんですね。」 「そう、ゴールデンウィークのタイミングでね。それで初めてのことなんだけど、派遣社員に来てもらって引き継ぎしている最中なの。」 『フォアフロント企画』には麻里子の他に、主に営業事務を担当している山本春香という、二人の事務員がいた。 「春香さんが復帰してくれるなら、その方が良いかもしれませんね。」 未来の言葉に、麻里子の表情が僅かに曇る。 「ここだけの話にして欲しいんだけど、面接に来た時は眼鏡をかけて真面目な雰囲気だったんだけど、試用期間が終わった途端、コンタクトにしてメイクまで変わって驚いてるの。」 「派手なんですか?」 「職場にそぐわないことはないの。32歳なんだけど、20代に若返ってる。」 「羨ましい。私なんて年齢より下に見られたことないですよ。」 未来はそう言って、本気で悔しそうな表情になった。 「あら私もよ。40歳になって、やっと年相応。」 二人は顔を見合わせて、ふふっと笑った。 「引き継ぎは山本さんがしてくれているから、私はよく知らないんだけど、派遣でいろいろな会社を回るのは、婚活目的もあるって話していたらしいの。確かに良い会社に入社すれば、条件の良い出会があるって就職活動の時、私も言われたけどね。」 へー、と未来は感心した。 「限られた期間、いろんな会社で働くって大変でしょうから、そういうことを楽しみにしてる人もいるんでしょうね。素敵な男性と出会うためには、自分も磨かなきゃいけないし、一石二鳥かも。」 「未来さんのようにね。」 麻里子は、からかうように未来の顔を見た。 未来は、それよりも何より麻里子から名前で呼ばれたことに、驚いてしまった。 そんな未来に気が付いたのか、麻里子は笑って言った。 「男女問わず、上の名前で呼ぶようにしているのは、私の仕事をする上でのケジメなんだけど、未来さんは退職したし、いいかなと思って。」 照れくさそうに話す麻里子がかわいくて、未来は思わず声を上げた。 「嬉しいけど、寂しい〜。」 「そう?やっぱり中西さんって呼んだ方がいいかな。」 いたって真面目に返す麻里子に、未来は、もうっと 言って笑った。 「未来でいいです。麻里子さん、これからもよろしくお願いしますね。」 そう言いながら未来の頭をよぎったのは、麻里子を慕う春香の羨ましがる様子だった。 「今日は話せて良かった。これから派遣社員の子と仕事するのは私だから、戸惑っていたの。仕事をきっちりしてくれたら、それでいいわね。」 はい、と未来は微笑んだ。
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