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「初めまして。コピーライターをしている中西です。よろしくお願いします。」
未来が挨拶をすると、ニコッと笑ったその女性は、首を傾げるようなお辞儀をした。
「松本明穂です。よろしくお願いします。」
未来は誰かに似ていると思ったが、思い出すことは出来ず、和田に促されて会議室に入った。
「綺麗な人ですね。」
会議室に入る未来を見ながら、明穂が呟いた。
「うん。でも久しぶりに会ったら、かわいくなってた。良かった、幸せなんだ。」
その言葉の意味が分からなくて、明穂は春香の顔を見た。
「ごめんなさい、独り言。」
春香は社長室にいる青島に目をやって、肩の力が抜けるのを感じた。
ひと騒動の後の会議室には、今回の案件を担当するメンバーが既に揃っていた。
「この間から社長には驚かされっぱなしだけど、今に始まったことでもありませんし、気持ち切り替えて、よろしくお願いします。」
和田が声を掛けると未来以外のメンバーは、意味ありげに笑いながら頷いた。
「さて今回の案件は、調理器具メーカーからの依頼です。」
和田はそう切り出し、説明を始めた。
有名調理器具メーカーが、製品化に数年かけた炊飯用の鍋を完成させ、6月の発売に合わせてプロモーションを手掛けることになった、というものだった。
「プレス発表前で、当然ながら全てにおいて機密事項です。先方の要望はいろいろありますが、最小人数でお願いしたいということ、調理器具ということで女性をチームに入れて欲しい、この2点でした。」
会議室には和田と未来の他に、男性ディレクターの石原、女性デザイナーの吉田涼子がいた。
「フォアフロント企画から、独立した女性陣に仕事を依頼したのは、そういう理由です。」
涼子に依頼しているということは、和田から聞いていたが、未来がフリーになってから仕事をするのは、初めてのことだった。
「未来、またチームになれて嬉しいよ。よろしく。」
「私こそ。よろしくお願いします。」
涼子は、フォアフロント企画から最初に独立した社員だった。
本人は嫌がっているが、年齢が近いこともあって女版青島とも称されるバイタリティ溢れる女性で、仕事人間と思われていたのだが、一人娘が小学校に上がるタイミングで、あっさりと退職してフリーになった。
そして未来同様に、現在もフォアフロント企画から、仕事の依頼を受けている。
「吉田さんには先日お話ししていますが、発表前の商品を工場から出したくないという理由と、ぜひその炊飯鍋で炊いたご飯を食べて欲しいということで、先方の経営するオーベルジュに招待されています。」
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